Tatsuro Yamashita - Christmas Eve (English Version) /2000年~概要~ 「クリスマス・イブ」は、発売から30年以上経つ今日に於いてもシーズンに一度は何処かで耳にするであろう、日本のJ-POPを代表するクリスマス・ソングです(…という説明さえ不要な程)。
元々は山下達郎が
1983年 6月8日に発表した7thアルバム
『MELODIES』 の収録曲で、そこから2ndシングル(1stは「高気圧ガール」)として同年12月14日に3万枚限定の
【30センチ/45回転盤ピクチャー・レコード】 《写真・左》として発売され、オリコン・シングルチャートで44位を記録しました。
B面はビング・クロスビーが大ヒットさせたクリスマス・スタンダード
「WHITE CHRISTMAS」のカバー で、これぞ達郎サウンドといえる多重録音の“一人アカペラ”の美しさはまさに“聖夜”に相応しい仕上がりです。
86/87年も【17cmホワイト・ビニール盤】が限定発売されていますが、「クリスマス・イブ」が広く知られるようになったのは最初のリリースから5年経った
1988年 以降のことでした。
JR東海『ホームタウン・エクスプレス(X'mas編)』のCMソング (
次項詳細)に起用されたことで知名度が上昇、1988年11月10日に4度目となるシングルも初めて【8センチ・シングルCD】として発売されました。
しかしクリスマス・シーズンが過ぎた後もロング・ヒットが続き、最初のリリースから6年後となる
1989年12月に初めてオリコン・シングルチャートで1位を獲得 【発売から1位獲得までに要した最長記録(当時)】、1989年度年間75位/1990年度年間13位という大ヒットとなり、2013年の時点で累計185.1万枚を突破、これは
【1980年代に国内で発売された楽曲で売上が最も多いシングル】 とされています(2位はもんた&ブラザーズ「ダンシング・オールナイト」)。
また、その後もシーズンになると思い起こされるクリスマスのスタンダードとなり、オリコンでは1986年 - 2017年に
【32年連続トップ100位以内獲得】 を継続中であり、これは同チャートでの最長記録です。
VIDEO VIDEO ~JR東海『クリスマス・エクスプレス(X'mas Express・Xmas Express)』シリーズ~ 国鉄分割民営化により
1987年に誕生したJR東海 は同年、最初の企業広告として
遠距離恋愛を題材にした『シンデレラ・エクスプレス』 (松任谷由実の同名曲がモチーフ)を制作していますが、そのコンセプトに基づいて翌
1988年 のクリスマス・シーズン向けに制作されたのが
『ホームタウン・エクスプレス X'mas編』 でした。
テーマ曲「クリスマス・イブ」の主人公は男性であるのに対しCMでの主人公は女性で、起用されたヒロインは当時15歳の
深津絵里 (高原里絵)。
映像は“帰ってくるあなたが最高のプレゼント”をテーマに、女の子が新幹線のホームで彼の帰りを心待ちにするも現れず涙を零した瞬間、プレゼントを持った彼がムーンウォークで登場する…という微笑ましいストーリーでした。
この企画は翌
1989年 に
『X'mas EXPRESS'89』 として継続され、恐らく「クリスマス・イブ」の人気が決定的となったのはこのCMによる影響も大きいでしょう。
ヒロインを演じたのは当時17歳の
牧瀬里穂 で、プレゼントを抱えて恋人を迎えようと駅の構内を急ぐ彼女が彼を発見、早く駆け寄りたい気持ちを抑えて柱の陰に隠れてワクワクしながら彼を待つ…という展開は、もはや「クリスマス・イブ」の“きっと来ない”せつなさは微塵も感じさせないストーリーとなっていますが、それを無視してもヒロインの初々しさは視聴者の共感を大いに誘うもので、牧瀬里穂自身もこのCMによって一躍脚光を浴びることとなりました(『Xmas EXPRESS』のCMはシリーズ化し、1992年まで毎年制作された)。
「クリスマス・イブ」は1983年の楽曲発表以来公式MVが存在していませんでしたが、発売30周年を記念して初めて映像化され、
「クリスマス・イブ(30th ANNIVERSARY EDITION)」 に新撮ショート・フィルム
を収録したDVDが特典として付加されました。
ヒロイン役は広瀬すずが演じ、『X'mas EXPRESS'89』のヒロインだった
牧瀬里穂が広瀬すずとすれ違ってぶつかる 通行人役で特別出演しており、これは
『Xmas EXPRESS'92』 でヒロイン
吉本多香美と山下達郎本人がぶつかる (カメオ出演)演出を彷彿させます。
VIDEO VIDEO ~Christmas Eve(English Version) ~ 山下達郎ファンの方はご存知のように、彼はオールディーズやビーチ・ボーイズの“マニア”であり、そうした手法やカバーを多く取り入れ作曲やサウンドに生かされていますが、「クリスマス・イブ」にもその血脈がしっかり流れています。
そうした特性からか外国の歌手が彼の楽曲をカバーすることも珍しくなく、「クリスマス・イブ」も同様でしたが、あまりに多くの解釈の異なる英語詞が作られていたため、公式の「Christmas Eve(English Version)」を制作することになりました。
そこで1982年の『FOR YOU』以来
英語詞 の提供を受けているアメリカのシンガー・ソングライター、
アラン・オデイ (Alan O'Day)に依頼しオリジナルである日本語ver.に準じた世界観で作詞されています。
この公式English Ver.が最初にお目見えしたのは、1991年のビデオ映像
『TATS YAMASHITA PRESENTS CHRISTMAS IN NEW YORK』 でした。
その後1993年にクリスマス・ソング&アメリカン・スタンダードで構成されたアルバム
『SEASON'S GREETINGS』 に収録され、
2000年からシングルにも採用 されています。
Wonder if it's gonna snow again 雨はまた、雪へと移ろうのだろうか… オリジナルの日本語Ver.との違いで気になったのが、【again】。
山下達郎が書いた日本語Ver.は心情表現を抑えて淡々と描いているのに対し、English Verは心情表現を加えて表現されている印象を受けます。
そうした印象からか、ここでの雨や雪は主人公の心模様と重なる【情景】であり、【again】は同じような場面が過去にもあったことを連想させました。
Somewhere far away the sleighbells ring 遠くに響く、スレイベルの音 【sleighbell】は“そりの鈴”でクリスマス・ソングによく使われる言葉ですが、山下達郎の(日本の)都会的な「クリスマス・イブ」に、“サンタを乗せたトナカイのソリ”が走るなんて想像できませんよね?
…なので、クリスマス・ソングによく使われるスレイベル(鈴を棒に取り付けた楽器)という解釈をしました。
~Epilogue~ 「クリスマス・イブ」は日本はおろか、本場キリスト教国の人々にも愛される山下達郎の代表曲で、彼自身も“
間違いなく私の代名詞となって残るであろう一曲。自分の全作品中、詞・曲・編曲・演奏・歌唱・ミックス、すべての要素がバランスよく仕上がった数曲のひとつ ”と評しています。
元々はシュガー・ベイブ時代の未完成曲
「雨は夜更け過ぎ」 (1975年1月24日・新宿厚生年金会館小ホールでの
『シュガー・ベイブ セカンド・コンサート』 で演奏されている)から生まれたもので、バロック調のコード進行からテーマを“クリスマス”として創作されました。
しかし本人が“
別にクリスマス・ソングで当ててやろうとか、そういう下心がもとよりあるはずもなく… ”という位置づけであったため当初シングル化は想定されていませんでしたが、ムーン・レコード社長からの提案でシングル化が決まったそうです。
また、2001年に初回放送されたTBS系
『クリスマスの約束』 で、ホストの小田和正から“番組で一緒に「クリスマス・イブ」を演らないか?”の出演依頼に対する手紙の中で、山下達郎は次のように綴っています。
“
もともとこの曲は、オフコースに触発されて作ったもの です。 青山のアパートの一階がオフコース・カンパニーで、二階に私の所属事務所があった時代でした。 あの頃は私も30歳になったばかりのとんがった盛りでした。 バンドで挫折した私にとって、オフコースはとても重要なライバルで、敵(失礼!)がバンドのコーラスなら、こっちは一人でとか、そういったしようもないことを若気の至りでいろいろと考えたものでした… ”
結局、山下達郎は出演せず小田和正が一人で「クリスマス・イブ」を歌いましたが…
この年『クリスマスの約束』のサブタイトルは、
“きっと君は来ない” でしたっ!
きっと君は来ない ひとりきりのクリスマス・イブ 「クリスマス・イブ」の有名なフレーズですが、ここから窺えるのは“クリスマス・イブに(恋人もなく)ひとりきりは淋しい”という価値観。
コラムニストの堀井憲一郎氏によると、
“1982年以前はクリスマスよりお正月が大事だった” が1983年12月の女性誌『アンアン』で「クリスマス特集 今年こそ彼のハートをつかまえる!」という特集が組まれるなど、その頃から
“クリスマスを恋人同士で過さないといけない” という日本独特の概念が育まれたと指摘しています。
そう言われてみると「クリスマス・イブ」の発表も1983年だし、ざっと調べてもそれ以前にそうした価値観に基づいた日本のクリスマス・ソングって殆んど無いことを考えると、本曲も日本人のクリスマスの概念形成に少なからず影響を与えたといえるのかもしれません。
ただ、歌という文化が素晴らしいと思うのは、
詞で悲しみ を語っていても、
曲や音色でそれを和らげる色づけ したり、あるいは
バック・コーラスで主人公を励ます気持ち を込めることもできることです。
山下達郎が傾倒したオールディーズとはそうした色彩を多層で表す音楽であり、「クリスマス・イブ」には故郷を離れ都会で暮らす若者の孤独感を代弁し、励まそうとする彼の気持ちが込められている気がします。
…でも彼をそんな気持ちにさせたのも、
“愛(人を思いやる)の大切さを確かめ合う”というクリスマス の概念があったからなのかもしれません。
キリスト教徒でもない日本人がこれほどまでにクリスマスに共感するのは、そういうことでしょう?
満たされた人には幸せを、満たされない人には希望を… 家族と暮らす人にも、ひとりきりの人にも、それぞれにクリスマスの恵みが届きますよう。
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