I Wish~洋楽歌詞和訳&解説

80年代の洋楽ロック・ポップス&ビートルズを中心に、歌詞の和訳と解説+エッセイでお届けします

STOP!
地球温暖化/気象災害激甚化
Lil Dicky - Earth
Lil Dicky - Earth1
Beatles & Solo
Please Please Me


With The Beatles


A Hard Day's Night


Beatles For Sale


Help!


Rubber Soul


Revolver


Sgt Pepper's


The Beatles


Yellow Submarine


Abbey Road


Let It Be


Magical Mystery Tour


Beatles(the other songs)


John Lennon


Paul McCartney


Wings


George Harrison


Ringo Starr


「ハロー」アデル

2017.02.17

category : Adele

Adele - Hello1 Adele - Hello2


Adele - Hello (2015年)



~アデル、またしてもグラミー5冠!~

日本時間2月13日午前に行われた『第59回グラミー賞授賞式』に於いて、やっぱりアデルが強かった!
アデルは今回グラミーで5部門にノミネートされていましたがその全て“5部門受賞”を成し遂げ、2009年の最優秀新人賞以来同授賞式での“不敗伝説”を更新する結果となりました。

一方、長年ロック界の重要人物と評されトータル・セールス1億枚以上を誇りながらも殆んどグラミーとは縁の無かったスーパースター、デヴィッド・ボウイが最期のアルバム『★(Blackstar)』関連でアデルと並ぶ最多5部門を受賞したことも大きな話題となった授賞式でした。
(※これまでデヴィッドの受賞は1985年の最優秀短編ミュージック・ビデオ賞と2006年の特別功労賞生涯業績賞のみ)



~概要~

「ハロー」は、今やイギリス(…いや、世界)を代表する女性歌手アデルの3rdアルバム『25』からの1stシングルで、Billboard Hot 100の10週No.1(2016年の年間7位)をはじめ世界中でNo.1に輝くなど、2015年末までに1,230万枚がリリースされました。
歴代記録を塗り替えることとなったYouTubeでは、公開24時間で2770万回の再生回数を記録し(VEVO)、最速(5日間)で1億回を達成、2017年2月19日現在までで約18億8000万回再生されています!

5部門を受賞した『第59回グラミー賞授賞式』では、うち3部門が本曲による受賞で、その内訳は以下のとおりとなっています。

最優秀レコード(Record Of The Year)
最優秀楽曲(Song Of The Year)
最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス(Best Pop Solo Performance)
(※アルバム『25』は、“Album Of The Year”と“Best Pop Vocal Album”の2部門を受賞)

…要するに最高栄誉とされる“主要4部門”のうち資格のない新人賞以外の3部門を独占したわけで、まさに堂々たる“この年の顔”であり、またしても前作『21』に続いての圧倒的な強さを見せつけた形となりました。
しかしAlbum Of The Yearに関してはビヨンセの『Lemonade』を予想した専門家やミュージシャンも多く、当のアデル本人も授賞式のスピーチで…

この賞は多分、受け取れない。とても畏れ多くて、すごく感謝していて嬉しく思っているけど、私の人生で最愛のアーティストはビヨンセなの。私にとってあのアルバム、『Lemonade』は、とてつもなく偉大で、思慮深く、すごく美しくて、ソウルに満ち、あなたのいつもとは違う面を私たちに見せてくれた。私たちはそのことを感謝している。私たちアーティストはみな、あなたを崇拝しています。あなたは私たちの光です。そしてあなたは、私や私の友人たち、私の黒人の友人達を力づけた。自分たちのために立ち上がろうという気にさせる。愛してます。ずっとそうだったし、これからもずっと

…とまでビヨンセを称え、彼女を涙ぐませる一幕もありました。
(※グラミーは元々保守的であり、黒人でヒラリー・クリントン支援者として有名なビヨンセが不利に扱われたという風説も背景にある)
それに反して、いとも簡単に5部門受賞を達成したかに見えるアデルですが、『25』は他人には全く想像もつかない“難産の末”に生まれた作品でした…(これについては後ほど詳しくお伝えします)。


 



~Lyrics~

Hello, it's me
Hello...私
I was wondering if after all these years
あれから、何年もこの胸に問い掛けてきたの

【hello】は広範に使える呼び掛け・挨拶ですが、日本の【こんにちは】は日中にしか使えないし電話以外で【もしもし】とは言いません。
歌詞を読むと、この物語は“何年も前に別れた元恋人への叶わぬ慕情と謝罪”であり、そんなせつないストーリーにのほほんと【こんにちは】もナイでしょ?
MVでアデルが何度も電話しているシーンが編集されていることから、電話の設定で【もしもし】として問題ないと思うのですが…

個人的には電話だけでなく、“電話できずに(あるいは電話していない間も)心のうちで届かぬ想いを彼に宛てている”せつなさにも含みを持たせたいと思ったので、敢えて日本語化せず【Hello】のままにしておきました。


Hello, can you hear me?
Hello...ねぇ聞こえてる?
I'm in California dreaming about who we used to be
いま私、あの頃ともに抱いた“カリフォルニアの夢”の中にいるの

アデルはロンドン育ちのイギリス人ですが、スーパースターとなって以降の活動の拠点はアメリカで、現在は家族と共にカリフォルニア州ロサンゼルスのビバリーヒルズに豪邸を構えて暮らしています。
カリフォルニアは19世紀にアメリカで起きた“ゴールドラッシュ”の舞台であり、人々が金脈を目当てに各地から続々と移住した伝説は【California Dream】として語り継がれました。
アデルの場合、ビジネスの成功があってカリフォルニアに移住できたとも思えますが、彼女はこの地に“家族とのCalifornia Dream”を築こうとしていたのかもしれません。

しかしドナルド・トランプが大統領に当選したことでアデル自身はイギリスへの帰国を真剣に考えているとも言われ、子どものことと考え合わせ決めかねているとも伝えられます。


Hello, how are you?
Hello...元気でいる?
It's so typical of me to talk about myself. I'm sorry
…ごめん、これじゃ自分のことばかり喋るいつもの私ね

…ところで、今回も“ネタ”をご用意いたしました!

「Hello」というと、80年代フリークの方は“あの人”を思い起こすのではないでしょうか?
…そう、ライオネル・リッチーが1984年に大ヒットさせた名バラード、「Hello」
アデルの「Hello」が一時は盗作とも騒がれたものの(トム・ウェイツの「Martha」との類似も指摘されている)、当のライオネルは熱烈に彼女とのコラボを望んでいるとされていましたが…

YouTubeのマッシュアップが、先に“実現”させちゃいました!
この映像は、2人がそれぞれのPVで電話越しに“Hello”を応答する形で編集されていますが、続けてライオネルが“Is it me you're looking for?(君が捜しているのは僕なんだろう?)”と切実に問い掛ける最中アデルが取った行動、そして直後のライオネルの反応が…!? 





~Epilogue~

“21世紀で最も売れたアルバム”に認定された『21』のリリース後、次々ともたらされる栄誉以外にアデルの身には公私に亘り大きな変化が起きています。
2011年には歌手生命にも係わる喉頭炎の手術をし、2012年秋には事実婚のパートナー、サイモン・コネッキーとの間に男児を出産、アデルは24歳で母となりました。

アデルがアルバムのタイトルに自身の年齢(制作に着手した当時の年齢)を掲げていることは有名ですが、『25』はまさに制作に着手した2013年の年齢であり、実際に『25』を発表できた時は既に27歳となっていたことがその“難産”を物語っています。
2013年、アデルは前作『21』プロデューサーのリック・ルービンと共に“母性”をテーマに制作を始めるもののアルバム全体があまりに退屈な出来ばえだったため廃棄、休暇を取ってアイデアを練るも何も生まれなかったほど極度のスランプに陥っていました。
そのため友人のキッド・ハープーン (Kid Harpoon) をプロデューサーに迎えてみたものの肝心のアデル本人はスランプのままで、さらには「Rumour Has It」のライアン・テダー(Ryan Tedder)とセッションを試みても決定的な成果は得られませんでした。

転機となったのは翌年、2人組の音楽ユニットThe Bird and the Beeのグレッグ・カースティンとの出会いで、「Hello」は彼とアデルによる共作です。
しかしそれでもアデルは“相変わらず”だったそうで、そのため曲の完成まで約6ヶ月を要したといいます。
この気の長くなるような共同作業について、グレッグは“いつまで経っても曲は未完成のままでアデルが曲を仕上げるつもりがあるのかともどかしかったけれど、ただ彼女を信じて待つしかなかった”とふり返っています。

一方のアデルにとって「Hello」は単なる“特定の元恋人への慕情や謝罪”ではなく、友達や元恋人、家族、ファン…そして彼女自身へのメッセージだったそうです。
スーパースターに登り詰め、手術、出産を経て迎えた25歳という年齢は彼女にとってターニング・ポイントであり、そういう意味でもこのタイミングで創作することとなったアルバム『25』は単なるアーティストとしての一作品ではなく、同時に一人の人間として人生を問い直す壮大な旅と重なったための難産だったといえるのでしょう。

『21』は、[破局(break-up)]についてのレコードだった。
もし『25』をそういう意味づけするとしたら、[償い(make-up)]ね。
自分自身との関係を修復し、失われた時間を取り戻す。
これまでしてきたこと、してこなかったことすべてに対しての償いの気持ちが込められている
の。


今までみたいに、もう過ぎてしまった過去の断片にしがみついている時間はないわ。
かつての思春期と、成熟した大人の境目で揺れながら、トラックに山積みの自分の過去というガラクタを手放して、何者でもない自分として生きていくって決めたの。


Hello from the outside
Hello...あなたの外の世界から呼び掛けた
At least I can say that I've tried
そして、これだけは言える…
To tell you I'm sorry for breaking your heart
“傷つけたこと、ごめんね”って、伝えようとしていたの


“Hello”に込められた想い… 



「Adele - Hello」


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「ムーン・リバー」オードリー・ヘプバーン

2016.09.09

category : Soundtracks

Audrey Hepburn - Moon River1 Audrey Hepburn - Moon River2


Audrey Hepburn - Moon River (1961年)



~中秋の名月~

2016年の“八月十五夜(十五夜)”は、9月15日(木)。
…ということで、今年もここで“月”の名曲をご紹介いたします。
でも今週は全国的に雨模様が続き、月曜の時点で15日木曜の予報は…。

一方、今年の夏は空梅雨から記録的猛暑の流れがあり“嫌な予感”がしていたところ、やはり“その修正のやり方は乱暴”なものであり、8月末からの台風は各地に大きな被害をもたらしました(ただし利根川上流8ダムの貯水量は9/9現在、平年比103%に回復)。
穏やかな秋となるよう、願いを込めて…。



~概要~

オードリー・ヘプバーンはアメリカン・フィルム・インスティチュート (AFI)の“最も偉大な女優3位”にも数えられるハリウッド女優であり、スレンダーで妖精のような美しさとかわいらしさを併せ持つ彼女は日本でも特に女性の憧れとして長く愛され続けました。
『ローマの休日』(1953年)、『麗しのサブリナ』(1954年)といった彼女の魅力を最大限に引き出す運命の作品とめぐり合い、一躍大スターへの階段を駆け上がったことは誰もがご存じのことでしょう。
そして1961年、再びオードリーのキャリアを語る上で欠かせない作品と出あうことになります…。

「ムーン・リバー」は、1961年のオードリー主演映画『ティファニーで朝食を(Breakfast at Tiffany’s)』の(非公式の)主題歌です。
作詞;ジョニー・マーサー/作曲;ヘンリー・マンシーニによって創られた楽曲であり、劇中では3つのバージョンを聴くことができます。
1つは主人公ホリー(オードリー)がニューヨーク5番街にある宝石店『Tiffany & Co.』の前で朝食のパンを食べる有名なオープニングでのインストゥルメンタルver.、2つ目はホリーが劇中で歌う歌詞ありver.、3つ目はオリジナルをアレンジした「Moon River Cha Cha」です。

このうちヘンリー・マンシーニ楽団による“1つ目”の「Moon River」がシングル・カットされBillboard Hot 100の11位、これらを収録した『ティファニーで朝食を』のサウンドトラックはアルバム・チャートBillboard 200でNo.1を記録し90週間ランク・インする大ヒットとなりました。
これを受けて「ムーン・リバー」は“アカデミー歌曲賞”、グラミーでも“最優秀レコード賞”・“最優秀楽曲賞”・“最優秀編曲賞”という最高の栄誉を受賞しました。

ただし、この輝かしい栄誉には本記事の主役である“オードリーの歌唱ver.”は含まれてはいません。
何故なら、オードリーが劇中で歌った「ムーン・リバー」はサウンドトラック・アルバムには含まれていなかっただけでなく、その後もずっと正式な音源としてレコードやCDに記録されなかったためラジオでも流れづらく、一般的にはカバーの一つであるアンディ・ウィリアムスver.の方が有名になるという現象を生みました。
しかしオードリー死後の1993年、彼女が劇中で歌った「ムーン・リバー」はベスト盤CD『Music from the Films of Audrey Hepburn』に初めて収録され、2004年にはオードリーの「ムーン・リバー」が映画音楽の歴史的名曲として『アメリカ映画主題歌ベスト100』の4位に選出されています。


 



~Lyrics~

I'm crossing you in style
いつの日か、きっと
someday
胸を張って、川の向こうへと辿り着きたい

 

OPで、ホリーが『Tiffany & Co.』のショー・ウインドウ前でパンを食べるシーンが浮かびます…。
『Breakfast at Tiffany’s』というタイトルは、“ティファニーで朝食を食べる身分になりたい”という主人公ホリーの願望を象徴するものです。
ちなみにこのシーンでオードリーが身につけているジバンシィのシンプルな黒のカクテルドレス (Little black Givenchy dress of Audrey Hepburn)は、“史上最も有名なドレス”といわれているのだとか!

“玉の輿”を夢みて近くの安アパートに暮らし、精一杯のオシャレをしてティファニーのショー・ウインドウを見つめるホリーですが、そのたったガラス一枚の向こうの世界はどう映っていたのでしょう。
このシーンで流れる歌詞のない「ムーン・リバー」は、どこか彼女を見守っているかのようにやさしい…。 


We're after the same rainbow's end
ふたりひとつの“虹の終わり”を追い求めたい
Waiting round the bend
その“入口”で待っていて

1行目は【pot of gold at the end of the rainbow(虹の先が地面に接する所に黄金入りの壺がある)】という伝説に基づいた表現と思われます…。
そして、二人は“同じ見果てぬ夢【the same rainbow's end】”を追い求める同志です。
【bend】は[曲がり目]のことですが、私は“虹の入り口”と解釈しました。

ホリーの当初の【rainbow's end】は、きっと“誰にも縛られない自由”と“Breakfast at Tiffany's”でした。
でもそれは彼女ひとりのための夢であり、実際ポール(ジョージ・ペパード)に求愛されても“人は誰のものでもないわ。私は、誰の鳥籠にも入らない”と突っぱねています。
その心の氷を解かすのも、最終的にやっぱり彼の言葉だったわけですが…。


My huckleberry friend
私のハックルベリー・フレンド
Moon river and me
あなた、そして私…

【huckleberry】は一般にマーク・トウェインの小説『トム・ソーヤーの冒険』で主人公の“相棒”として登場するハックルベリー・フィンと認識されていますが、作詞者ジョニー・マーサーの自伝によると“幼少のころ一緒に川下りをした彼の友人”をイメージしたものだそうです。
【Moon river】も、ジョージア州サバンナにあるジョニー・マーサーの実家の下を流れる“The Back River”をイメージしたものとされます。

何れにしても、作詞者ジョニー・マーサーにとって“Moon River”は幼少期に起源する現在進行形の大切な想いを象徴するものなのかもしれません…。



~Epilogue~

『ティファニーで朝食を』原作者のトルーマン・カポーティは主人公ホリー役にマリリン・モンローを据えることを条件に映画化を承諾したといわれます。
原作でのホリーは娼婦であり、“セックス・シンボル”と称されたマリリンこそ適役と思われましたが当の本人に拒否されてしまい、その代役として浮上したのがおよそそれに似つかわしくないオードリーでした。
ところがそのオードリーにも“娼婦の演技はできない”と言われ、“娼婦ではないホリー”として脚本が書き換えられた経緯があったそうです。


一方「ムーン・リバー」作曲者のヘンリー・マンシーニはマリリンをイメージした曲がどうしても浮かばず悩んでいたものの、主役がオードリーに替わった途端メロディが自然に浮かんできたといいます。
“「ムーン・リバー」はオードリーに出会ってメロディが浮かび、オードリーの声域に合わせて創ったんだ…”

そういう経緯があったせいか、オードリー自身も「ムーン・リバー」をとても気に入っていました。
彼女が劇中で歌うシーンは今でも歴史に残る名シーンとして認識されていますが、映画の制作過程に於いてある日、配給元 パラマウント映画の社長が“あの歌(オードリーが歌うシーン)は削った方がいい”と言い出し、これに対してオードリーが“いいえ、絶対削らせません”と断固食い下がったためこのシーンが残されることになったというエピソードがあります(感情論はともかく、歴史に残る名シーンと評される程のものを嗅ぎ分けられない映画会社社長の嗅覚というのも、どうかと思う)。

マンシーニは言います…
“この曲はその後千回以上も録音されたけれど、いつもオリジナルを聴きたくなる。オードリーは心を込めて歌っていて、歌詞に魂が感じられるんだ。彼女の歌う「ムーン・リバー」が一番好きだ”

マンシーニはこの曲でオードリーと出逢って以来、33年間ずっと彼女に片想いをしていたという説もあります《写真》。
もしこれが本当だとしたら「ムーン・リバー」は“一人の男の、手の届かぬ女への慕情”であり、その“主人公はマンシーニ”“【Moon River】はオードリー”だったという仮説も成立し得るのかもしれません。
そして彼はオードリーがこの世を去った翌年、1994年に彼女の後を追うように70年の人生を終えています。

最後にご紹介するのは1961年に作者であるマンシーニとジョニー・マーサーが録音したデモver.
マンシーニのオードリーへの想いを歌詞に重ね合わせ、お聴きください…。

Audrey Hepburn - Moon River3  

Moon river, wider than a mile
Moon River...きらめく川面が、1マイル彼方まで広がっている
I'm crossing you in style someday
いつの日かきっと、胸を張って川の向こうへと辿り着きたい…



「ムーン・リバー」


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「セイリング」クリストファー・クロス

2016.07.15

category : Christopher Cross

Christopher Cross - Sailing1 Christopher Cross - Sailing2


Christopher Cross - Sailing (1980年)



~海のシーズンの始まり~

7月18日、九州~東海地方で“梅雨明け”が発表されました。
全国各地では同日から真夏日を記録、早い所では小学校が夏休みに入り、本格的に海のシーズンの始まりです!

『海の日』でもあるこの期間、大型練習帆船“海王丸”(97.05m/2,238.40t)が展示される富山県射水市では7/16-18に『海王丸パークフェスティバル』が催され、17日には“海を愛するタモリの日本一楽しいヨットレース”『タモリカップ富山大会』も開催されました。

…今回は、そんな選曲です♪ 



~概要~

「セイリング」は1979年12月に発表されたクリストファー・クロスのデビュー・アルバム『南から来た男(Christopher Cross)』からの2ndシングルで、翌年8/30付Billboard Hot 100のNo.1(1週/年間32位)に輝いた曲です。
アルバムからは既にドゥービー・ブラザーズのマイケル・マクドナルドがバック・ヴォーカルを務めた1stシングル「Ride Like The Wind」が大ヒットし、続くシングルには「I Really Don't Know Anymore」が第一候補に挙がっていましたがこれもマイケルのヴォーカルをフィーチャーしていたため権利関係に問題が生じるのを回避し次善として選ばれたのが「Sailing」でした。

ヒット・チャート以上に圧巻だったのは1981年の第23回グラミーで、クリストファーは「セイリング」で“最優秀レコード賞”“最優秀楽曲賞”“最優秀ヴォーカル入りインストゥルメンタル編曲賞”を受賞、アルバム『Christopher Cross』は“最優秀アルバム賞”を、さらに“最優秀新人賞”を加え都合5部門に輝いたことで話題を呼びました。
とりわけこの年のクリストファーが成し遂げた“グラミー主要4部門独占”史上初の快挙であり、58回を数えた現在までもそれを達成し得たのは彼以外にありません。


「Sailing」の魅力は何といってもクリストファーの純水のように澄み切った美しい歌声と、静かに流れる風と穏やかな波を思わせるギターの音色で、そこに派手さはないものの涼しげな心地よさはまさにAORを象徴する上品な大人テイスト。
クリストファーはこの作品を自身の最高傑作の一つと捉えており、デビュー作にしてあまりに洗練された完成度の高いアルバムを生み出してしまったせいか、グラミーにノミネートされた後も“デビュー・アルバムの勢いが今すぐ止まり2ndアルバムのころ僕という存在が忘れ去られてしまったとしても、年老いた僕は死の床で、昔全米No.1を記録しグラミー5部門にノミネートされたんだよ、って言える”と言及するほど、これを誇りにしていたそうです。
しかしこれほど類い稀なる美声を持ち、「Sailing」をはじめとする作曲能力を備えながら、本人の言葉通り翌年の「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」(過去ログ)を境に本当に失速してしまうとは、この時誰が想像したことでしょう…。

 時代は、“美声より美男”を求めたってことじゃね?

 



~Lyrics~

Well, it's not far down to paradise
パラダイスは遠くはない
At least it's not for me
…少なくとも、僕にとっては

クリストファーがこの作品の創作を始めた時、すぐに最初の部分が閃いたそうです。
そのあまりの出来ばえに、“Wow, これメチャクチャいい感じ!”と有頂天になってアパートを飛び出すほどでした…
…が、全体を完成させるまで実に2年かかったそうです! 

サスガに2年は無くとも、ブログをやっているとこんな経験ってありません?


It's not far to never-never land
ネバーランドは遠くはない
No reason to pretend
それを偽る理由もない

【never-never land】は“おとぎの国・(夢や空想にしか存在しない)理想郷”という意味であり、【Neverland】はマイケル・ジャクソンの邸宅…
…ではなくて、ジェームス・マシュー・バリーの戯曲『ピーター・パン』に出てくる国
原作でネバーランドは“海を2つ、夜を3回越えた先に存在する”とされ、子どもたちは年をとることがない…
…とされますが、実はその裏にはとっても怖いヒミツが隠されている!? 

 “うまい話にゃ裏がある”…、オレたちの世界の常識さ♪


Sailing takes me away
Sailing... 連れて行っておくれ
To where I've always heard it could be
ずっと、夢でしか叶わないといわれた場所

【sail】は“帆”であり、この静かな曲調から直感的に穏やかな内海でヨットを楽しんでいるようにも思えますが、歌詞全体を見渡すと意外に“大航海”なのかもしれません。
主人公は、その魅力に取り憑かれているのでしょうか…。

【Sailing】をテーマにした理由についてクリストファー自身は、少年時代に毎年夏に友人とセイリングして遊んだ思い出を挙げており、当時のいろんな悩みを忘れさせてくれたと語っています。
私の少年時代は毎年素潜りを楽しみにしていましたが、あなたは何を楽しみにしていたでしょうか…。



~Epilogue~

現在も人や大量の物資を世界中に届け、食料供給や文明発展の大きな役割を担っている船舶。
確認されている最古の記録によると、人類が風を動力とした帆船を用いたのは少なくとも紀元前4,000年頃からだそうです。
帆船が最も輝かしい功績を挙げたのは、新大陸をはじめ世界の未知なる航路を次々と発見した15~18世紀の“大航海時代”。
19世紀は全盛と衰退の時期で、世紀の後半には産業革命の産物である蒸気船に海の主役の座を奪われることとなります。

帆船の特徴は何といっても風を捉えるための大きな帆(sail)ですが、帆船ってどれ位の速度で推進するかご存知でしょうか?
たとえば日本最大のクルーズ客船『飛鳥Ⅱ』(241m/50,142t)の巡航速度は約18ノット=33.3km/h(最高21ノット)であるのに対し、現代・世界有数の速度を誇る日本の大型帆船『海王丸II世』(110.09m/2,556t)はISTA(国際セイルトレーニング協会)の帆船レースで平均速度11.2ノット=20.7km/h(124時間で1,394海里を帆走)という歴代最高(1995年)を記録しているそうです。
…しかし一旦無風状態が続くと1日の航走距離が僅か13kmということもあるそうで、それも“風頼み”の宿命といったところでしょう(このため、補助動力としてディーゼル・エンジンも搭載されている)。


And if the wind is right
もしも風が力を貸してくれたなら
you can sail away and find serenity
君は航海を遂げ、麗らかな世界へと辿り着けよう

21世紀の風は、私たちにどんな恵みをもたらせてくれるのでしょう…。
確かに、化石燃料と原動機の開発により、風は人類の繁栄に重要な意味を持たなくなったかもしれません。
しかし化石燃料資源を殆んど埋蔵しないこの国だからこそ、21世紀はますます風の力が必要になると、私は思っています。

あたたかい太陽の光や、爽やかに流れる風、膨大な海の水を世界に巡らす潮、火山国だからこそ尽きることなく湧き出す熱…
豊かな自然は時に災害を併せ持つけれど、だからこそ彼らを汚したり怒らせたりする営みを慎み、学び、セイリングの時のように自然と語り合いたい。
海は広い心で迎え入れ、きっと麗らかな世界へと導いてくれる…。



「セイリング」


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tags : 1980年 AC  清涼感 美声 グラミー最優秀レコード賞 グラミー最優秀楽曲賞 

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「チェンジ・ザ・ワールド」エリック・クラプトン

2016.04.08

category : Eric Clapton

Eric Clapton - Change The World1 Eric Clapton - Change The World2


Eric Clapton - Change The World (1996年)



~日本大好き!エリック・クラプトン、21度目の来日~

エリック・クラプトンが4/13日から、“ホーム・グラウンド(※)”日本武道館で5夜限定の来日公演を行います。
(※格闘技オタクの彼にとって、そういう意味でも聖地である)
現在来日中の74歳ボブ・ディラン(過去ログ)が“最後の来日”といわれるように、現在71歳のエリックも“今回が最後”らしい…
…とはいっても彼の場合、もう15年前から来日の度にそんなことが囁かれており(その後6回も来ている!)、その信ぴょう性は微妙…?

ただ、以前からエリックは“70歳になったらツアーをやめる”と公言しており、今回の来日がそうであるようにこれからも単発的なライブはあり得るのかもしれません。
(原宿・明治神宮前『福よし』“鳥かつを食べたくなったら日本に来る”? ケコ~オッ!!



~概要~

「チェンジ・ザ・ワールド」は、1996年7月に公開されたジョン・トラボルタ主演のファンタジー恋愛映画『フェノミナン(Phenomenon)』の挿入曲としてエリック・クラプトンが歌唱した作品です。
シングルとしてBillboard Hot 100の5位(年間19位)を記録し日本でもラジオ局J-WAVE(TOKIO HOT 100)で年間No.1に輝くなど、世界各国で大ヒットしました。
その後も日本ではカバー&CMなどで広く・長く愛され続け、2015年3月からはトミー・リー・ジョーンズ&タモリの不思議な空気感と共に“サントリー・コーヒー・プレミアムボス”のCM曲としてお馴染みでしょう♪

“ギター・レジェンド”のエリックが“当代随一の音楽プロデューサー”ベイビーフェイス (Babyface)とコンビを組んだことでも話題を呼んだ作品であり、ベイビーフェイスはPVにもギター・プレイヤーとして出演しました。
翌年のグラミーで「Change The World」は“最優秀レコード賞/最優秀楽曲賞/最優秀ポップ男性ヴォーカル賞”の三冠を獲得しており、その授賞式でもこの2人のギターの弾き語りによってパフォーマンスされています。
以来エリックのアコースティックの定番としてライブには欠かせないナンバーとなりましたが、一方のベイビーフェイスにとっても長年のレパートリーとなっているようです。


あまりにもこのイメージが強いせいか、彼またはベイビーフェイスの作曲と思われがちですが作者はこの何れでもなくトミー・シムズ(ブルース スプリングスティーンの「Streets of Philadelphia」をプロデュース)、ゴードン・ケネディ、ウェイン・カークパトリックによって1990年代前半に書かれたものです。
エリックがこの曲を聴いたとき車を運転しながらノンストップで200回聴き続けるほど気に入ったそうで、ヒットを確信したといわれます。

さらに、初めて「Change The World」を正式に発表したのはアメリカの女性カントリー歌手ワイノナ・ジャッド(Wynonna Judd)で、エリックver.の5カ月前の1996年2月にリリースしたアルバム『Revelations』に於いてでした。
エリックver.がグラミーで最高の評価を得たにもかかわらず、アカデミー歌曲賞の候補に挙がらなかったのはこのためと思われます。

 
 
Eric Clapton Change the World 投稿者 cloudy_boy



~Lyrics~

If I could reach the stars
もしもこの手が星に届くなら
Pull one down for you
ひとつ、君に取ってあげよう

“星に手が届くワケないじゃん!”
…なんて、ツッコミ入れているのは誰です?
折角のムードですから、そっとしておいてあげましょう♪

 星なんて持ってきたら、押し潰されるに決まってるし?
 ・・・・


If I could be king, even for a day
僕が一日、キングになれたなら
I'd take you as my queen
君をクイーンに迎えよう

覚えておいでですか?
“オリジナルは女性が歌っていた”ということを!
そのため、“エリックver.ではkingとqueenを入れ換えて”歌っています。

ちなみに[United Kingdom]ウィンザー朝の君主エリザベス2世の称号は【Queen】ですが、夫エディンバラ公の称号は【Prince】です。


But for now I find
今はまだ
It's only in my dreams
夢の中にある物語

…そう、これは何もかもまだ夢の物語。
道理で【stars】【world】【universe】など、ハナシが大きいわけですね♪

 う~む、“君という宇宙を照らす陽の光となろう”は使えそうだ…。
 また悪いコトに使うつもりじゃないでしょうね?



~Epilogue~

“Change The World”

…なんて、大業を目標に掲げた偉人が好んで言いそうなセリフ?
例えば2008年のアメリカ大統領選挙でバラク・オバマ氏が連呼した
Change, Yes, we can.変えよう、我々ならできる)”が浮かびます。

あるいは、アップル・コンピュータ創業者のスティーブ・ジョブズ氏の有名な殺し文句!
Do you want to sell sugared water for the rest of your life, or do you want to come with me and change the world?
このまま一生砂糖水を売り続けたいか、それとも私と一緒に世界を変えたいか?
[ペプシコーラの事業担当社長ジョン・スカリー氏(※)をアップルに引き抜いた際の言葉(※マイケル・ジャクソンをCMに起用するなど、ペプシをコーラ業界トップにした人)]

主人公は、“大業を成し遂げられたら君と幸せを築く”というのだろうか…
それとも、映画『フェノミナン』のように奇跡によって世界は変わる?


私は、大業とか奇跡ではない、ごく普通の人のストーリーを想像しました。
誰かに恋をして、ひとり胸を膨らませ、あるいは想いは共有しているものの【kingdom】を築くだけの条件がまだ揃っていない…
そんな、誰にでもあるような平凡な夢や悩みです。
それが叶おうと叶うまいと、きっと世の中の大勢に影響を及ぼすこともないささやかな人生…

You would think my love was really something good,
きっと心からこの愛を喜んでもらえる
Baby if I could change the world
僕が、世界を変えることができたなら…

たとえ自分という小さな世界であれ、人はままならないその現実に悩み、苦しむ。
そして、彼は明日という日に光を描かずには生きられない。

この詩は、そんな“あなたという宇宙を照らす陽の光”… 
 ハテ、何処かで聞いたような…



「チェンジ・ザ・ワールド」


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tags : 1996年 カントリー/ブルース  情熱の愛 映画90's CM曲 ベイビーフェイス グラミー最優秀レコード賞 グラミー最優秀楽曲賞 

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「シンキング・アウト・ラウド」エド・シーラン

2016.02.19

category : 2000年~

Ed Sheeran - Thinking Out Loud1 Ed Sheeran - Thinking Out Loud2


Ed Sheeran - Thinking Out Loud (2014年)



~第58回グラミー賞~

2月15日(日本時間16日)に米ロサンゼルスで世界最高峰の音楽の祭典『第58回グラミー賞授賞式』が催され、注目の“主要4部門”は以下の結果となりました。

最優秀レコード賞 Record of the Year
「Uptown Funk」 マーク・ロンソン ft. ブルーノ・マーズ
最優秀アルバム賞 Album of the Year
『1989』 テイラー・スウィフト
最優秀楽曲賞 Song of the Year
「Thinking Out Loud」 エド・シーラン
最優秀新人賞 Best New Artist
メーガン・トレイナー

今回話題といえば、日本が誇る世界的指揮者・小澤征爾氏が8度目のノミネート&80歳で初受賞(最優秀オペラ・レコーディング賞)という快挙もありました!
また、このところたて続いた大物の逝去によって授賞式はレディー・ガガ(デヴィッド・ボウイ追悼)、イーグルス&ジャクソン・ブラウン(グレン・フライ追悼)、ペンタトニックス&スティーヴィー・ワンダー(モーリス・ホワイト追悼)、クリス・ステープルトンft.ゲイリー・クラーク・ジュニア/ボニー・レイット(B.B.キング追悼)、ハリウッド・ヴァンパイアーズ(ジョニー・デップ、アリス・クーパー、ジョー・ペリーらによるレミー・キルミスター追悼)など追悼パフォーマンスのラッシュとなりました。





~概要~

エド・シーランは2011年にデビューしたイギリスのシンガー・ソングライターで、現在25歳。
1stアルバム『+(プラス)』をイギリスで180万枚以上売り上げ一躍自身のスターの地位を築き上げましたが、同時にワン・ダイレクションへの楽曲提供者の一人としても名を挙げました(「Little Things」「Over Again」など)。

「シンキング・アウト・ラウド」は2014年の2ndアルバム『x(マルティプライ)』の収録曲で、同年9月3rdシングルとしてリリースされ全英シングル・チャート1位に輝いただけでなく、翌年6月に“UKで1年間トップ40にチャート・インし続けた初のシングル”という異例のロング・ヒットを達成しました(※ダウンロード開始は2014年6月)。
一方US Billboard Hot 100の最高位は2位、アメリカだけで500万枚以上を売り上げています。
また、ストリーミング配信サービス『Spotify』に於いてエド・シーランは“2014年に最もストリーミングされたアーティスト”に輝いていますが、シングル「Thinking Out Loud」は“ストリーミング数が5億回を突破した初めての曲”として歴史に名を刻みました。
PVでエドは社交ダンスを披露しており、気になるお相手の女性はダンス・コンテスト番組『So You Think You Can Dance(U.S. season 10)』の参加選手Brittany Cherryで、エドは減量とブリタニーとの1日5時間×3週間という厳しい特訓を経て撮影に臨んだそうです。

また、今回のグラミー“最優秀楽曲賞”“最優秀ポップ・パフォーマンス(ソロ)”の2部門を受賞した彼ですが、これまで2013年に1部門・2014年に2部門・2015年に3部門ノミネートされながら一度も受賞が叶わなかったことから、本人は“今年はノミネートされても授賞式には行かないつもりだった。でも、行かない年に限って受賞したりするかもしれないから出席した。もし受賞しなかったら、もう今後は行かない。”と覚悟を決めての参加だったといいます。
…とはいうものの、実は今回対象となっている「Thinking Out Loud」は昨年『第57回』の式典に於いてジョン・メイヤーとの協演によりパフォーマンス披露済みであり、今年同曲が歌われることはありませんでした。

ところで、今回の“最優秀楽曲賞”の選考でエドに敗れた悔しい立場であったにも拘らず、彼の受賞を誰よりも喜んでいたのがテイラー・スウィフト(彼女も今回3冠)でした。
エドとテイラーは数年来に亘る“親友”であり、グラミーが明けた2月17日のエドの誕生日を祝うメッセージと共に「シンキング・アウト・ラウド」について、次のようにエピソードを語っています。

2年前ロンドンで、私がバレエシューズを買っていた店にエドが入ってきたの。そしてこう言ったわ。「この新曲を聞いてよ。僕の最高傑作だと思うから!」って。そしていつものようにエドは電話を取り出して、私にヘッドフォンを渡してくれた。私は店のベンチに座ってその曲「Thinking Out Loud」を初めて聴いたの。小さな子どもたちがチュチュやレオタードを選んでいた隣でね。でもこの歌が世界中の結婚式でのファーストダンスの定番曲になり、エドの最大のヒット曲になり、2016年のグラミー賞で年間最優秀楽曲を獲得することになるなんて、あの時は思いもしなかったわ。”
“エドとはツアーで1年間ほぼ毎日一緒だったの。エドが私の楽屋に突入してきて新曲を聞かせてくれるのが楽しみだったわ。それがあまりにも頻繁だったから普通のことになってたんだけど、私に一番最初に聞かせたいと思ってくれたエドの気持ちがどれだけ嬉しかったか、エドはわかっていなかったと思う。常に新しいものを創り出そうとする彼のパワーと情熱がどれだけ私に刺激を与えたのかも、エドはわかっていなかったと思うわ。


う~む…
この二人の間には、“釈然としない何か”がある? 

 



~Lyrics~

When your legs don't work like they used to before
君の脚が、かつての健やかさを失い
And I can't sweep you off of your feet
僕も、その足元をさらって抱きかかえられなくなる頃

いきなりちょっとシリアスな話題ですが、この頃“それ”を意識させる出来事がエドの周辺で起きていました…。
「Thinking Out Loud」の作者はエドと、17歳以来の作曲パートナーAmy Wadge(エイミー・ワッジ)ですが、作品が生まれる前年の2013年にそれぞれ祖父と母を亡くしており、その経験が影響を与えたようです。
ある日エイミーが1階でギターのコードを弾いていると、2階でシャワーを浴びていたエドが急いで駆け降りてくるほど彼の気を引いたそうで、本格的に作業が始まると約20分でそれを完成させたそうです!

“老化は足から”と言われますが、あなたは自信がおあり…? 


When my hair's all but gone and my memory fades
この髪がすっかり抜け落ち、記憶もおぼつかなくなって
And the crowds don't remember my name
世間も僕の名を忘れ去り

エドのおじいちゃんは最後アルツハイマー病に苦しんでいたそうで、そのことを想起させます…。
齢を重ねるとともに少しずつ身体の機能が衰え、それまで当たり前にできていたことができなくなってゆくのが老化です。
普通の細胞は損なわれれる毎に再生しますが脳の神経細胞は再生されることはなく、損なわれる毎に減少してゆきます。
このため、認知機能を低下させる認知症の一種である“アルツハイマー病の最大の危険因子は年齢”であるとされ、認知症の発症率は85歳を越えると急激に上昇するそうです。

私たちは、先を生きる家族によって“人生の無常”を教わる…。 


And I'm thinking 'bout how people fall in love in mysterious ways
人は、どうして恋という不思議の迷路へ堕ちてゆくのだろう…
Maybe just the touch of a hand
たぶんそれは、手と手が触れたせい

恋をすることは苦しむことだ。 苦しみたくないなら、恋をしてはいけない。
でもそうすると、恋をしていないことでまた苦しむことになる。
by ウディ・アレン

 ナルホド…。

男が本当に好きなものは二つ。危険と遊びである。
そしてまた、男は女を愛するが、それは遊びのなかで最も危険なものであるからだ。
by ニーチェ


 …ドキっ!?



~Epilogue~

作品のタイトルとなっている【think out loud】は“考えを口に出す”ですが、使われ方がシャレています。
自分の気持ちを口で伝えるのではなく“鼓動に語らせる”なんて、何ともニクい演出です。
心拍は嘘発見器にも適用されるほど精神状態を物語る生理現象ですから、科学的にも道理に適うのでしょう…。
“ウソ”を見抜いちゃうほどネ?)

Place your head on my beating heart
そして、この胸に耳をあててごらん
I'm thinking out loud
鼓動が声をあげている…
Maybe we found love right where we are
“二人は、ここに愛を見つけたよ”

一方、“70歳になろうと、23歳と同じ気持ちで君を愛し続ける”という印象的なメッセージは本作品のもう一つのテーマであるといえ、これはエドがリアルタイムで交際していた恋人アシーナ・アンドレロスに捧げられたものです。
しかし“有言実行”とは難しいもので、2015年2~3月頃に二人は破局したといわれ、これには“エドの親友”テイラー・スウィフトの存在が影響しているとも憶測されています。


“think out loud”や“everlasting love(永遠の愛)”は目指すべき理想ではあるものの、加齢と共に容貌の美しさが褪せ、身体機能も心もとなくなった相手を23歳の頃のように“my beating heart(ときめき)”で見つめられるかといえば、厳しい現実が待ち受けていることは否めません。
でも、思い出してみてください…。
愛とは、表面的な美しさを指し表す概念ではなく、“心の内面にある精神的な美しさ”のことだったはずです。
そのことを十分に理解し心で育むだけの時間は、たった23年では足りな過ぎます。

魅力あるもの、キレイな花に心を惹かれるのは、誰でもできる。
だけど、色あせたものを捨てないのは努力がいる。色のあせるとき、本当の愛情が生まれる。
 遠藤周作


“ときめき”では越えられないその先にこそ、“永遠の愛”の領域はあるのですから…。


「シンキング・アウト・ラウド」


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tags : 2014年 AC 優しい愛 グラミー最優秀楽曲賞 

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