もちろん今回お届けする「When We Was Fab」はこのフレーズに由来する作品であり、かつてFABの一人であったジョージ・ハリスンのドキュメントでもあります。 中級以上を自認するビートルズ・ファンなら思わずニヤッと、初心者の方も背景を知ると“ガッテン”していだだける要素が多数ちりばめられているので、どうぞお楽しみに♪
~概要~
「When We Was Fab」は1987年発表のアルバム『クラウド・ナイン(Cloud Nine)』(『All Things Must Pass』から数えて9th)の収録曲で、2ndシングルとしてBillboard Hot 100で23位(イギリスで25位)を記録しました。 作者はジョージと、映画『上海サプライズ』で運命の出会いを果たしたELOのジェフ・リンの共作で、以降ジェフはジョージの創作とビートルズ・アンソロジー・プロジェクトを成功に導く重要な役割を担う存在となります。 タイトルで“We Was”となっているのは誤植ではなく確信犯で、ビートルズはよくこの“手口”を使っていたのでディープなファンは思わずニヤリ…?
上記のとおり“FAB”はビートルズのキャッチ・フレーズに関連する言葉であり、ドラムにはビートルズの盟友リンゴ・スターを招いてレコーディングされました。 歌詞もビートルズ時代を回顧する内容となっていて、曲調やアレンジには当時のジョン・レノンの作品「I Am the Walrus」を彷彿させるパロディー風の趣きがあります。 さらにシングル・ジャケット《写真上・左》には、アルバム『Revolver』のジャケットをデザインした旧友クラウス・フォアマンを再び起用し現在のジョージと対比させるという細かい“ネタ”への徹底ぶり!
視覚効果絶大のPVはまさにその集大成であり、1988年の『 MTV Video Music Awards』で6部門にノミネートされました。 まずジョージ自身はビートルズ時代のギターやファッションと初公開の“二人羽織芸?”を披露し、ジェフやリンゴが扱う“長ぁ~い”フシギな楽器など、全編を通して遊びゴコロ満載です♪ 更に“隠し味”として、通り過ぎる通行人の中にポール・サイモン(野菜を運ぶ)やエルトン・ジョン(カップにコインを入れる)など大スターをカメオ出演させています(他にはレイ・クーパー)!
(Fab!) Like this pullover you sent me 君は、“着ぐるみ”を着せ (Fab!) And you really got a hold on me まさに、僕を支配していた
ここでの【you】は、ポールを指すと解釈しています。 【pullover】は“頭から被って着る衣服”ですが、「FAB」は「I Am the Walrus」に関連付けられた作品であることから、映画『Magical Mystery Tour』でビートルズが“着ぐるみ”を着て同曲を演奏するシーンをイメージしました。 この頃すでにジョンは燃え尽き症候群(?)状態だったため、やる気満々なポールが必然的に活動の主導権を握るようになります。 この着ぐるみ演奏のアイデアはポールによるものかは定かではありませんが、ジョージの性格からするとバカバカしいと思っていたことは想像に難くはありません。 (ただし、少なくともジョンは一番喜んでやっていたように思う)
~Epilogue~
(Fab!) Long time ago when we was fab Fab...ずっと昔、僕らが“Fab”だった頃
(Fab!) But it's all over now, baby blue Fab...悲しいけれど、すべては終わったこと
シングル「When We Was Fab」のジャケット《写真》を観察すると40代のジョージの絵には目尻のシワやほうれい線が描かれており、20年という歳月の経過を痛感させます。 この作品はある意味“「Fab」だった過去の自分に対する敗北宣言”とも解釈できますが、この良い意味での諦めが自虐的ネタをパロディーで笑い飛ばす心の余裕を生み、かつての名声に囚われていた彼を吹っ切らせ復活へと導いたような気がします。