本曲発表時すでにコンサート活動を止めていたため残念ながらビートルズでのライブ演奏はありませんが、1976年ウイングスの『Wings Over America』以来ポールのライブでよく演奏されるビートルズ・ソングの1つでもあります。
~Lyrics~
See how they run 駆け回る彼らをご覧
コーラスとして度々登場するこのフレーズはジョンのアイデアという説があり、1967年の彼の作品「I Am the Walrus」にも【See how they run】のフレーズが使われているので、まず間違いはないのでしょう。 ただしジョンというとイングランドの伝承童謡『マザー・グース (Mother Goose)』好きとして有名であり、【See how they run】は彼によるオリジナルではなくそのマザー・グースにもある有名なフレーズです。 マザー・グース『Three blind Mice スリー・ブラインド・マイス』には【Three blind mice. Three blind mice./See how they run. See how they run.】というフレーズがあって、“3匹の盲目ねずみが農家の奥さんを追いかけ回す歌”となっています。
また、1964年のアメリカNBCのTVムービーに『小さな逃亡者(See how they run)』という作品があり、“父親を殺され孤児となった三人の子供が組織に追われるストーリー”で、こちらが影響を与えた可能性も無きにしも非ず?
Tuesday afternoon is never ending 火曜の午後はいつ終わるとも知れない Wednesday morning papers didn't come 水曜の朝は新聞が来ない
マザー・グースでは“1週間の歌”は子どもに曜日を覚えさせる定番曲であり、幾つもの歌がみられます。 そのうちの一つ、谷川俊太郎も訳したことで知られる「Monday's Child」は“占いの歌”となっていて、【Monday's child is fair of face 美しいのは 月曜日の子ども /Tuesday's child is full of grace 品のいいのは 火曜日の子ども… 】という風に誕生日の曜日ごとに子どもの性質を伝えています。
ファッツ・ドミノの「Blue Monday」は【Got to work like a slave all day 一日中奴隷みたいに働かなければならない】男の1週間を描いた作品ですが、歌詞を顧みると確かに「Lady Madonna」は“その女性版”ともいえる趣きがあります。 ポールによると「Lady Madonna」は当初【聖母マリア】をテーマとしていたものの、その後主人公を【リヴァプールの労働者階級の女性】に変更したそうです。
a working-class woman ...
それを意識した表現かは定かではありませんが、本曲は“ポールのヴォーカルやギターの音をエフェクターで歪ませ”たり、“ジョンとジョージがポテトチップスを食べながらコーラス”したり、“ピアノに安っぽいマイクを使ってコンプレッサーとリミッターを大量にかける”…といった明らかに音を劣化させる作業にわざわざ手間をかけ録音されています。 【Mother Mary】なる存在が登場し、ゴスペル風のオルガンを響かせピアノの余韻で終わらせた「Let It Be」とは真逆の趣きです。
But when you talk about destruction だけど、君が破壊を語るというなら Don't you know that you can count me out 僕を数のうちから外しておいてくれ
一般論として破壊や暴力は明白な犯罪であり“悪”ですが、毛沢東によると革命の手段としてのそれは許されます。 ジョンは「Revolution」で破壊を拒否する姿勢を示していながら、一方で「Revolution 1」では同じラインを【you can count me out “in(入れてくれ)”】と肯定しています。 この矛盾についてジョン本人は、“物事はいつか良くなると思うし、暴力的な革命を憎んでもいた。でもだんだん、他に何ができる?…と、確信が持てなくなった”と語っていますが、世界で最も影響力のある人物の言葉としては何ともリスキー!
But if you want money for people with minds that hate だけど君が、それを嫌悪する人々のため金が必要というなら All I can tell you is brother you have to wait 僕に言えるのは、“待つより外はない”とだけ
毛沢東が行った“文化大革命”は、言葉を換えると“毛沢東思想を用いて若者を扇動し、自らの復権を企てた権力闘争劇”だったとも言えます。 革命の名の下に、その実行部隊として組織されたのが少年らを中心とする“紅衛兵”であり、彼らの暴走を含め革命による死者・行方不明者は数百万~数千万人ともいわれるそうです。 当初世界の人々はそうした実態を知らず毛沢東思想の光の部分だけが一人歩きし、ジョンも毛沢東のバッジを身に付けるほど影響を受けていました。 その実態が明らかになるにつれ人々の評価は変わり、1972年にはジョンも“毛沢東について引用すべきでなかった”と考えを改めています。 (ただし、同年のアルバム『Sometime in New York City』の「We're All Water(ヨーコの作品)」で“毛主席とニクソンも、裸にすれば大差はない”としてアルバム・ジャケットにも写真が反映されているし、1980年の作品「Woman」にも毛沢東の詩の引用が見られる)
~Epilogue~
You say you'll change the constitution(※) 憲法を変えると、君は言う You tell me it's the institution 君は、それこそあるべき法のかたちだと (※毛沢東を示唆しているとしたら、【constitution】は政体、【institution】は制度と捉えるのが適切だろう)
I disapprove of what you say, but I will defend to the death your right to say it.(※) 私はあなたの意見には反対だ。だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る。 (※フランスの哲学者ヴォルテールの言葉として有名ですが、定かではないらしい)
1. Rock And Roll Music 2.She's A Woman(過去ログ) 3. If I Needed Someone 4. Day Tripper 5. Baby's In Black 6. I Feel Fine 7. Yesterday 8. I Wanna Be Your Man 9. Nowhere Man 10.Paperback Writer(過去ログ) 11. I'm Down
ビートルズがコンサートを行うというとどの国でも大騒ぎになるものですが、武道館公演では安全のため1万人の観客に対し3千人の警官を配備する厳戒態勢が敷かれ、メンバー自身も宿泊先である東京ヒルトン・ホテル(現キャピトル東急ホテル)に“ほぼ”軟禁状態に置かれました。 この間退屈を持て余した4人は、日本のファンのため1枚のキャンパスに寄せ書きした絵画『Images of a Woman』の制作に励み、これをビートルズ・ファン・クラブ会長に贈っています。