本曲の大半はリズムボックス【ローランドCR-78】によって生成された単調で静かなサウンドですが、後半劈(つんざ)くように入ってくるドラムス(ファンは“magic break”と呼んでいる)を号砲とするかのように、それまで抑えていたフィルの感情が堰を切って溢れ出し、悲鳴へと移り変わるさまが聴き所となっています。 フィルは当初ジェネシスの作品として提供するつもりでしたが、メンバーから“シンプル過ぎる”と反対されとりやめました。 また、本作プロデューサーのヒュー・パジャム(Hugh Padgham)は80年代以降フィルやジェネシス、ポリスやスティング、ポール・マッカートニーなどのヒット作の多くに携わるなど名プロデューサーとして有名ですが、彼にとってもその名声を得る第一歩となったのが「In The Air Tonight」でした。
ただし、本曲が特に広く知られるようになったのは作品発表から3年後、1984年にアメリカのドラマ『特捜刑事マイアミ・バイス(Miami Vice)』のサウンドトラックに起用されてからでしょう。 「In The Air Tonight」が使用されたのはその第1回(パイロット版)、『血闘サブマシンガン!巨大組織を叩きつぶせ!(Brother's Keeper)』です。
物語序盤からソニー・クロケット刑事は警察の内部情報が麻薬密輸組織に流れている疑念を抱いており、終盤でその犯人が自分と長年家族ぐるみの付き合いをしてきた仲間であったことが判明します。 絶対の信頼を寄せていた仲間の裏切りへの怒りと、彼が“売った”情報によってソニーの相棒が命を落とした哀しみを背負い、後に“新たな相棒”となるニューヨークの刑事リカルド・タブスと共に麻薬密輸組織摘発へと乗り込む道中に「In The Air Tonight」が流れます。 無機質に回り続けるタイヤ、黒いボディーに流れゆく街の光、愛車が主人の心を映し、彼を覆う暗闇「In The Air Tonight」…“MTV Cops”として人気を獲得した同シリーズの魅力を集約した屈指の名シーンです。
~Lyrics~
Well if you told me you were drowning, ところで、溺れるお前が助けを求めてきたとする I would not lend a hand …だが俺は、お前に手を貸さないだろう
「In the Air Tonight」で最も印象的なこのフレーズはロック界でも有名な都市伝説の一つとなっていて、いろいろ“尾ひれ”がついています。 その一つを紹介すると、“少年時代のフィルが誰かを溺れさせている男を(救助できないほど)遠くに発見し、後年探偵を雇って犯人を見つけ出すと「In the Air Tonight」を初演する彼のコンサートへ無料で招待し、終始その男にスポットライトを浴びせた”…という話。
この伝説は世代をも超える影響力を持っているようで、2000年にエミネムは「Stan」の歌詞の中に【You know the song by Phil Collins "In the Air Tonight" / About that guy who coulda saved that other guy from drowning】とこの場面を参照し、“(この歌のように)君は僕を溺死から救える(のに見殺しにしようとしている)”と、ストーリーを展開させています。
And I've been waiting for this moment for all my life, oh Lord ずっと待ち続けたこの瞬間... Can you feel it coming in the air tonight, oh Lord, oh Lord お前も、それを感じるだろう?
もちろんこうしたあらゆる都市伝説の類いを否定する一方でフィルは、これを1980年に“離婚した妻への‘たくさんの怒り’、‘たくさんの絶望’、‘たくさんのフラストレーション’”であることを認めています。 一説によると奥さんは【ペンキ塗りの男性】と恋仲になって出て行ってしまったらしく、その後フィルが「In the Air Tonight」を作曲し、イギリスのテレビ番組『Top of the Pops』に出演した際、“ある仕掛け”をして奥さんへの強烈な反撃を試み、彼女に“私へのメッセージだと、すぐに分かったわ”と言わしめたそうですが…
実際の映像で確認してみると、確かに“キーボードの横”にそれを示す【ブツ】があるっ!!
~I can feel it coming in the air tonight, oh Lord~
【King of Pop】マイケル・ジャクソンが人気を極めてからの人生は、まさに“悲鳴と絶叫”の連続でした。 山のようなゴシップなんてまだカワイイ方で、彼ほど生涯に於いて係争に明け暮れた個人はなかったのではないでしょうか? 今日の作品は、そんなマイケルの“心の叫び”です。
一方で今日の日本でも、国民が“scream”したくなるような出来事が相次いでいます…。
~概要~
「スクリーム」は1995年6月16日に発売されたマイケル・ジャクソンの9thアルバム『HIStory: Past, Present and Future, Book I』から同年5月31日にリリースされた先行シングルで、Billboard Hot 100の 5 位(年間56位)を記録しました。 1982年のアルバム『Thriller』の収録曲「P.Y.T.」以来10数年ぶりに妹ジャネット・ジャクソンとの共演であり、この時マイケルに肩を並べるスーパースターに成長を遂げていたジャネットとの兄妹デュエットはとても話題を呼びました。
「Scream」はそのジャネットとの共作であるだけでなく、彼女をトップ・スターに押し上げた立役者ジャム&ルイス(Jimmy Jam & Terry Lewis)が作曲・プロデュースに関わった楽曲で、サウンド的には一連のジャネット作品に近いものといえます。 2009年6月のマイケル急死後の同年9月13日に開催された『MTV Video Music Awards 2009』ではマイケルのトリビュート・コーナーが設けられましたが、ここでジャネットがパフォーマンスしたのが「Scream」でした。 ステージに設置された大きなスクリーンに「Scream」のSF(ショート・フィルム)が投影され、そこからジャネットが登場しスクリーンのマイケルとのダンス共演を再現する演出がなされ、会場を大いに沸かせました。
その兄妹共演が話題となったSFは制作費約700万ドルというギネス・ワールド・レコーズにも【史上最も費用のかかったPV】として認定された名作で、これは現在でも史上最高額です(ちなみに2位はマドンナの「Die Another Day」で610万ドル、「Thriller」は100万ドル)。 この映像は『1995 MTV Video Music Awards』で3冠を獲得(Best Dance Video / Best Choreography / Best Art Direction)、第38回グラミー賞でも“Best Music Video, Short Form”を受賞しました。 この映像の中でマイケル&ジャネットはダンス共演やテレビ・ゲームを一緒に楽しんでいますが実はコレ、マイケルによると“ビデオを撮ったのはジャネットと共演する為の口実”だったそうです!
~Lyrics~
Tired of the schemes 陰謀にもウンザリだ The lies are disgusting 胸クソ悪い嘘ばかり
「リトル・ライズ」は1987年の14thアルバム『タンゴ・イン・ザ・ナイト(Tango in the Night)』からの3rdシングルで、アメリカBillboard Hot 100で4位(年間51位/英5位)を記録したポップ・ナンバーです。 クリスティンの“McVie”姓が示す通りメンバーのジョン・マクヴィーの奥さんでしたが1977年に離婚していて(以降もMcVie姓を芸名として名乗る)、この曲は86年10月に再婚したばかりの12歳年下キーボーディストEddy Quintelaとの共作によって生まれました。