「ホワット・シー・ウォンツ」はアメリカのガールズ・バンド、バングルス(The Bangles)がブレイクするきっかけとなった「Manic Monday」(過去ログ)に続いてアルバム『シルバースクリーンの妖精 (Different Light)』からリリースされた2ndシングルです。 1stシングル「Manic Monday」(全米2位)と3rdシングル「Walk Like an Egyptian」(全米No.1)というインパクトに挟まれ本曲はBillboard Hot 100で29位という地味なアクションでしたが、私にとってはこの2曲以上にお気に入りであり、ビートルズ・フリーク揃いであるバングルス本来の魅力を味わえる作品といえるでしょう。
歌っているのは「Manic Monday」のヴォーカルを務めたスザンナ・ホフス(Susanna Hoffs)で、残りのヴィッキー&デビー・ピーターソン姉妹とマイケル・スティールらが“掛け合うコーラス”は、まさにビートルズ初~中期を彷彿させる魅力を感じさせます。 作者はアメリカのシンガーソングライターのジュールズ・シアー (Jules Shear)…というより、“シンディ・ローパー「All Through the Night」(過去ログ)を書いた人”、と言った方がイメージし易いでしょう。 「If She Knew What She Wants」は元々ジュールズ・シアーが1985年に自身のアルバム『The Eternal Return』で発表した楽曲で、バングルスはその歌詞の一部を変更した上でカバーしています(後述)。
PVは、2種類制作されています。 一つは広く知られる【北米版】で、一部“モノクロ映像”が用いられたり“メンバーのムフフなシーン”がフィーチャーされており、スザンナのお母さんで映画監督のTamar Simon Hoffsが制作したものです。 もう一つはヨーロッパで見られた【UK版】で、こちらは“セピア色”と“回転するセット”が特徴となっています。
The Bangles - If She Knew What She Wants (UK Version)
~Lyrics~
If she knew what she wants もしも彼女が自分の欲しいものを知っていたなら (He'd be giving it to her) (きっとカレはそれをあなたに与えてくれたはず)
バングルスver.の「If She Knew What She Wants」は、【she】と【he(sheの恋人?)】の関係に対する【I(sheの友人?)】の視点で描かれており、この構図はビートルズの「恋のアドバイス 」を思い起こさせます。 「恋のアドバイス 」は背中を押すように囃し立てる勢いがありますが、本曲の遠い懐かしさを感じさせるメロディとバングルス特有のあたたかく厚みのあるコーラスは、まるで友人(または女性全般)をやさしく見守っているかのようです。
But she wants everything だけど、彼女は全てを欲しがったり (He can pretend to give her everything) (カレは全て与えられる“ふり”をする)
「あの娘にアタック」は1983年の9thアルバム『イノセント・マン(An Innocent Man)』からの1stシングルで、ビリー・ジョエルにとって2曲目のBillboard Hot 100のNo.1(1週/年間44位)であり、イギリスでは同年2番目に売れた作品です。 作者はビリー自身で、プロデュースは『The Stranger』以来お馴染みのフィル・ラモーン。 『イノセント・マン』はビリーが少年時代好きだった1950~60年代R&Bやドゥー・ワップへのオマージュが込められており、「アップタウン・ガール」(過去ログ)など明るく前向きなラブ・ソングが多く収録されました。 ビリー本人によると、「Tell Her About It」は特に“シュープリームスやマーサ&ザ・ヴァンデラスを思い浮かべて書いた”そうです。
本作でビリーは20年も前の音楽をフィーチャーしていますが1960年代と1980年代のそれには案外共通性も多く、80年代育ちの私にとっても60年代音楽は違和感なく心に入ってきた記憶があります。 実際、シュープリームスの「You Keep Me Hangin' On」やマーサ&ザ・ヴァンデラスの「Dancing In The Street」は80年代にカバーされ大ヒットしているし、ビリーの「Tell Her About It」や「アップタウン・ガール」、ライオネル・リッチーの「ユー・アー」(過去ログ)のような古いモータウン・サウンドへのオマージュいっぱいのテイストも、流行の最先端だったデュラン・デュラン に劣らず人気を獲得しました。
また音楽同様、PVが楽しい映像になっていて、“ビリーが1963年の『The Ed Sullivan Show』に出演するという設定”も気が利いているし、ナンといっても登場するエド・サリヴァンのそっくりさんの演技が秀逸で、彼の特徴的なモーションに思わず笑ってしまうことでしょう♪ ちなみにUK盤シングルの写真《右》は、この収録から撮られたものです。
~Lyrics~
Listen boy いいかい… It's good information from a man Who's made mistakes これは、かつて過ちを犯した男からの耳よりの情報
この曲が発表された1983年は、ビリーにとって重要な転換点となった年でした。 彼は10年近く連れ添った妻エリザベスと同年7月に離婚、それを見届けるように7月28日にリリースされたのが「Tell Her About It」だったのです。 離婚したというのに何とも皮肉なタイトルですが、それがこの失敗から得た教訓だったとすれば納得できるのではないでしょうか? ビリーはその前年モデルのクリスティ・ブリンクリーと出逢っており(「アップタウン・ガール」に登場する女性)、「Tell Her About It」を自ら実行して1985年に彼女とゴール・イン… この頃の彼の心境は、“推して知るべし”でしょう。