「ダウンタウン・トレイン」は1989年のベスト・アルバム『The Best of Rod Stewart』のため新たに録音されたシングルで1990年1月にリリース、「Da Ya Think I'm Sexy?」以来11年ぶりにロッド・スチュワートが英・米両方のチャートでトップ10入り[UK 10位/US Hot 100 3位(年間37位)]を達成した作品です。
ロッドver.のヒットの要因として彼自身の哀愁たっぷりのヴォーカルがあるのはもちろんですが、プロデューサーを務めたトレヴァー・ホーンの貢献も大きく、ロッドはその出来映えについて『The Best of Rod Stewart』のライナーで“すばらしい才能にあふれ社交的なトレヴァー・ホーンがプロデュースした一枚岩のような曲”と評しました。 “レコーディングに貢献”といって忘れてはならないのは1960年代からの盟友ジェフ・ベックで、ここではスライド・ギターで参加しています。 また、「Downtown Train」は元々ロッドのお気に入りというわけだったわけでなくWEAレコードのロブ・ディキンズの紹介によるものだったらしく、“彼が、僕の関心をこの美しいトム・ウェイツの曲に向けてくれた”と、その功績に言及しています。
私が初めて「Downtown Train」のパフォーマンスを目にしたのは1991年のグラミーで、これはロッドが本作品で“Best Male Pop Vocal Performance”にノミネートされたことによるものですが、実際には恐らくこの時の歌は“口パク”だったと思われます。 ただ、この時のロッドのパフォーマンスがとにかくカッコよくて、今もお気に入りの映像です。 でも、どうしてもロッドの生歌が聴きたいという方のために、正真正銘の生歌映像をお付けいたしましょう♪
You wave your hand and they scatter like crows お前が別れの手を振ると、奴らは烏のように四散する They have nothing that'll ever capture your heart …そんな連中に、その心を熱くさせるものなどあろうはずもない
作品のテーマの一部となっている【downtown】は普通名詞としては[商業地区に・都心部に]といった意味ですが、この作品ではそこを走る電車は【Brooklyn girls】で溢れているということから、舞台は“ニューヨーク市ブルックリン区ダウンタウン・ブルックリン”と思われます。 ブルックリンはニューヨークの5つの区の中で最も人口が多い250万人が居住する大都会で、区内にはニューヨーク市地下鉄が18線通っておりマンハッタンとを行き来する者の92.8%はこの地下鉄を利用するそうです。 「Downtown Train」のPVには地下鉄が登場し、《概要》の項で紹介したグラミーのパフォーマンス映像でも【Will I see you tonight on a downtown train】のラインにくるとロッドが頻(しき)りに右手で下を指さす仕草をすることからも、【Train=地下鉄】という解釈が成立します。
Will I see you tonight on a downtown train “今夜、ダウンタウン・トレインで会えない?” Every night, every night its just the same …毎夜毎晩、唯そればかり想い巡らす
しかしこの点は歌っているアン本人も気にしていて、ハートの代表作の一つであるにも関わらずライブでも歌うのを暫く避けてきました。 その後1994年夏にホームタウンであるシアトルで行った“アンプラグド”スタイルのステージでは、憧れのジョン・ポール・ジョーンズ(元レッド・ツェッペリン)に“独自の形で歌えばどう?”とアドバイスされ、“Love like strangers(見知らぬもの同士としての恋)”という歌詞を“Love like rain is falling(つまり、運命に引き寄せられるように恋に落ちたという意味合い)”に換えて歌っています。