「We Didn't Start The Fire」なんてナンだか物騒な雰囲気ですが、ビリー・ジョエルは何を考えこんな意味深なタイトルを付けたのでしょうか? 【fire】は私たち人類にとって欠かすことのできない“文明”である一方、全てを焼き尽くす“破滅”にもなり得ます。 人は、時としてこうした文明の使い方を誤って想定外の火を招き、やがて制御不能と化した“怪物”に全てを奪われてしまうこともあるものです。
そして、今回の【Start The Fire】は“1931年9月18日”…
~概要~
「ハートにファイア」は1989年の11thアルバム『ストーム・フロント(Storm Front)』からの1stシングルで、Billboard Hot 100で2週連続No.1('90年の年間35位)に輝いた作品です。 (…それにしても、“ルー大柴”が言いそうな邦題!? ) グラミーでは、“Record of the Year”にノミネートされ授賞式のオープニングを務めています。 このアルバムは、『The Stranger』以来前作まで長年のパートナーとなっていたフィル・ラモーンに替えてフォリナーのミック・ジョーンズをプロデューサーに迎えた冒険作でしたが、シングル・アルバム共に全米No.1を獲得する大成功を収めました。
そんな鳴かず飛ばずのビリーに声を掛けたのがファミリー・プロダクションズというレコード会社のアーティ・リップという人で、彼のプロデュースにより1971年11月にビリーはソロ・デビュー作である『Cold Spring Harbor』を発表、翌年シングル「She's Got A Way」をリリースしていますが、何れもチャート・インさえ果たすことはできませんでした。 こうした失敗の後に“ドタバタ劇”は付きモノで、ツアーを開始するも半ばで中止、そもそもレコード会社側が『Cold Spring Harbor』を回転速度を上げて録音していたことに対するビリーの不信は非常に強く、別人のような自分の歌声に彼は完成したレコードを投げつけたといいます。 (後年ビリーはここでの歌声を“the Chipmunks(アニメのシマリス)みたい”とジョークにしている)
その後1972年にコロムビアに移籍、「素顔のままで」(過去ログ)などでグラミー賞の常連となっていたビリーは1981年、初期4枚のアルバムからの選曲となる初のライブ・アルバム『ソングズ・イン・ジ・アティック(Songs in the Attic)』を発表し、その中から「シーズ・ガット・ア・ウェイ」がライブ音源として再びシングル・カットされBillboard Hot 100で23位を記録しました。 さらに『イノセント・マン』が発表された直後の1983年9月、廃盤となっていた『Cold Spring Harbor』は回転数を修正しバッキング・トラックに編集を加え、“幻のデビュー・アルバム”としてコロムビアから再リリースされ、158位とランク・インを果たしています(邦題は『コールド・スプリング・ハーバー~ピアノの詩人』)。
最後に、ビリーは2013年に『ケネディ・センター名誉賞』(毎年アメリカで優れた芸術家に贈られる賞)を受賞していますが、彼に敬意を表して式典で「She's Got A Way」を歌ったドン・ヘンリーのパフォーマンスをどうぞ♪
~Lyrics~
She's got a way of pleasin' あの娘には、心を愉しくさせる何かがある But there doesn't have to be a reason anyway いずれにしても、理由なんて必要ない
「あの娘にアタック」は1983年の9thアルバム『イノセント・マン(An Innocent Man)』からの1stシングルで、ビリー・ジョエルにとって2曲目のBillboard Hot 100のNo.1(1週/年間44位)であり、イギリスでは同年2番目に売れた作品です。 作者はビリー自身で、プロデュースは『The Stranger』以来お馴染みのフィル・ラモーン。 『イノセント・マン』はビリーが少年時代好きだった1950~60年代R&Bやドゥー・ワップへのオマージュが込められており、「アップタウン・ガール」(過去ログ)など明るく前向きなラブ・ソングが多く収録されました。 ビリー本人によると、「Tell Her About It」は特に“シュープリームスやマーサ&ザ・ヴァンデラスを思い浮かべて書いた”そうです。
本作でビリーは20年も前の音楽をフィーチャーしていますが1960年代と1980年代のそれには案外共通性も多く、80年代育ちの私にとっても60年代音楽は違和感なく心に入ってきた記憶があります。 実際、シュープリームスの「You Keep Me Hangin' On」やマーサ&ザ・ヴァンデラスの「Dancing In The Street」は80年代にカバーされ大ヒットしているし、ビリーの「Tell Her About It」や「アップタウン・ガール」、ライオネル・リッチーの「ユー・アー」(過去ログ)のような古いモータウン・サウンドへのオマージュいっぱいのテイストも、流行の最先端だったデュラン・デュラン に劣らず人気を獲得しました。
また音楽同様、PVが楽しい映像になっていて、“ビリーが1963年の『The Ed Sullivan Show』に出演するという設定”も気が利いているし、ナンといっても登場するエド・サリヴァンのそっくりさんの演技が秀逸で、彼の特徴的なモーションに思わず笑ってしまうことでしょう♪ ちなみにUK盤シングルの写真《右》は、この収録から撮られたものです。
~Lyrics~
Listen boy いいかい… It's good information from a man Who's made mistakes これは、かつて過ちを犯した男からの耳よりの情報
この曲が発表された1983年は、ビリーにとって重要な転換点となった年でした。 彼は10年近く連れ添った妻エリザベスと同年7月に離婚、それを見届けるように7月28日にリリースされたのが「Tell Her About It」だったのです。 離婚したというのに何とも皮肉なタイトルですが、それがこの失敗から得た教訓だったとすれば納得できるのではないでしょうか? ビリーはその前年モデルのクリスティ・ブリンクリーと出逢っており(「アップタウン・ガール」に登場する女性)、「Tell Her About It」を自ら実行して1985年に彼女とゴール・イン… この頃の彼の心境は、“推して知るべし”でしょう。