「ノトーリアス」はデュラン・デュラン1986年の4thアルバム『Notorious』からの1stシングルで、Billboard Hot 100の2位(1987年の年間25位)を記録した作品です。 1985年のライヴ・エイドを最後にロジャー・テイラーがショー・ビジネスに疲れて音楽業界を引退し実家の農場経営に専念、残った4人で『Notorious』の創作に取り掛かりますがギタリストのアンディ・テイラーの志向する音楽と他のメンバーとの隔たりは大きく、作業は途中で挫折してしまいます。 レコーディング継続を渋るアンディをスタジオに復帰させるため法的措置まで取って彼を連れ戻し作業を再開したものの、得られたのは全員にとって不快極まりない結果でしかありませんでした。
そこで結局アンディとのセッションは諦め、1983年の「The Reflex」でリミックスを担当したナイル・ロジャースの力を借りることにしました。 ナイルは優秀なギタリストであるだけでなく、80年代にはデヴィッド・ボウイの『Let's Dance』やマドンナの『Like a Virgin』を大ヒットさせた当代随一のプロデューサーであり、この選択は本作の成功の大きな要因となります。 「Notorious」のサウンドで特徴的な“ファンク”とブラス・セクションはナイルによるアイデアであり、とりわけ彼のファンクなギター・プレイには一聴で“それでいこう!”となったそうです(ただし、本曲のギターには[Additional musicians]としてアンディの名も残されている)。
And who really gives a damn for a flaky bandit? そんな危うい無法者を誰が本気で相手にする? Don't ask me to bleed about it そして、俺の血をアテにしないでくれ
歌詞のストーリーは映画『汚名』とは類似していないように思いますが、【悪名高い誰か】を批判しています。 デュラン・デュランは体制批判のバンドではないし[当時彼らが置かれていた状況]から、作者の一人サイモン・ル・ボンが“[who really gives a damn for a flaky bandit]は【the guitarist】への当て擦り”と言及したという話もありますが、定かではありません(wikiでは[要出典]が付されている)。
1985年、デュラン・デュランはイギリスの国民的映画[007]シリーズ第14作『007 美しき獲物たち(A View to a Kill)』の主題歌を担当しイギリスで3週2位、アメリカBillboard Hot 100で2週No.1(年間35位)に輝く大ヒットを記録、これは007主題歌史上初の快挙であり、今日までも唯一の達成です。 ちなみに、2012年にBillboardは007の50周年を記念して『007ベストテーマソング・トップ10』を発表していますが、その映えある1位こそ「A View to a Kill」であり、奇しくもロジャー・ムーア時代の作品が上位4曲を独占しました。
…しかしこの頃のデュラン・デュランは、メンバーが【パワー・ステーション】と【アーケイディア】という2つのユニットに分かれそれぞれ違った色合いの作品を発表するなど、音楽的にも精神的にもバラバラな状況にありました。 一方で「A View to a Kill」はデュラン・デュランと007シリーズの作曲を手掛けるジョン・バリーによる共作となっており、メンバーによると彼との連携はそれぞれ[作曲]と[オーケストラ・アレンジ]という明確な役割分担により、非常にスムーズに進行したそうです。 …それどころか、本曲のプロデュースには外遊先であるパワー・ステーションからプロデューサーのバーナード・エドワーズを参加させ、これにより“あのエフェクト”の効いたキレのあるロック・テイストと、ジョン・バリーのスリリングなオーケストラの融合が実現、見事に“007のアクション・イメージ”を代弁するサウンドに仕上がりました。
そして、同年7月13日に催された世紀のイベント『LIVE AID』当日はまさに「A View to a Kill」がHot 100でNo.1に就いた日であり、バンドにとっては最高の気分で迎えるべきステージでしたが、この日一部のメンバーは同じ舞台でパワー・ステーションとしてもパフォーマンスを披露していることが予兆であるかのように、これを最後にアンディ・テイラーとロジャー・テイラーはバンドを去ってしまいます。 結果、「A View to a Kill」はデュラン・デュランの黄金期(第4期)を形成した5人が創作した最後のシングルとなってしまいました。
~Lyrics~
Meeting you, with a view to a kill 心に殺意を秘め、お前と見(まみ)える Face to face in secret places, feel the chill 恐怖と興奮を背に、人知れず相見(まみ)える
本作の原作はイアン・フレミングの『バラと拳銃(From a View to a Kill )』という短編集で、映画では語呂が悪いとの理由から[From]を省いて『A View to a Kill 』としたそうです。 また、劇中で誰かが映画タイトルをセリフにするのがこのシリーズの恒例となっていますが、今回は飛行船から見下ろすサンフランシスコ湾の眺望をメイデイ(グレース・ジョーンズ)が“What a view!(なんて素晴らしい眺め)”と感嘆した場面、そこに透かさずゾーリン(クリストファー・ウォーケン)が“...to a kill”と付け加える形でフレーズを完成させています。
ゾーリンはこの地に人工的な大地震を起こし都市を壊滅させる計画を企てており“...to a kill”はそういう意味と考えられますが、【kill】には[うっとりさせる]というニュアンスもあるため、“大量殺戮=うっとりさせる”という彼の残虐的な内面まで匂わせる一言であるような気もします。
Still oversea, 海の向こう could it be the whole world opening wide 世界を股にかけた駆け引きとなるだろう
今回はシベリア(実際はアイスランドとスイス)やフランス、アメリカなどを舞台としてストーリーが展開しており、前半の目玉の一つはエッフェル塔で007とメイデイが繰り広げる追跡劇です。 そして「A View to a Kill」のPVは、このシーンに沿わせるように、デュラン・デュランのメンバーがそれぞれの役割を演じて展開します。