アメリカのシンガー・ソングライターであるトム・ペティは1976年からトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ(Tom Petty and the Heartbreakers)として活動を続けてきましたが、1989年には自身初のソロ・アルバム『フル・ムーン・フィーヴァー(Full Moon Fever)』を発表しました。 本アルバムのプロデュース及び共作者には『Cloud Nine』でジョージ・ハリスンを復活に導いたイギリスのロック・バンド【ELO】 (Electric Light Orchestra)のジェフ・リンを迎えて制作されており、『Full Moon Fever』は“聴き所で満たされたアルバム”と評されBillboard 200の3位と、自身過去最大級のヒットを記録しています。
「フリー・フォーリン」はトム&ジェフが2日で完成させたとされる曲で、ギターにはハートブレイカーズのマイク・キャンベルが参加しています。 1989年9月に『MTV Video Music Awards』 でハートブレイカーズ及びGuns N' Rosesのアクセル・ローズとイジー・ストラドリンと共に「Free Fallin'」をパフォーマンスしており、その後10月にアルバムからの3rdシングルとしてリリースされBillboard Hot 100で7位(1990年の年間64位)を記録、これは彼の生涯で最も成功したシングルです。
スティーヴィー・ニックスやスパンダー・バレエのトニー・ハドリー、P!nk、Keshaほか性別や世代、ジャンルを問わず多くの歌手にカバーされていますが最も有名なのは2007年にライヴ・アルバムにも収録されたジョン・メイヤーでしょう。 翌2008年『第42回スーパーボウル』ではトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズとしてハーフタイムショーで「Free Fallin'」をパフォーマンスしました。 本曲の普遍的価値については、ローリング・ストーン誌も“500 Greatest Songs of All Time 179位”と評価しています。
トム・ペティについて、日本ではピンとこないかもしれませんが本作発表以降も長年アメリカで高い人気を維持し続けた希少なロック歌手であり、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ名義の最新アルバム『Hypnotic Eye』(2014年)も Billboard 200のNo.1に輝くなどセールスも好調で、今年はハートブレイカーズ40周年を記念した全米ツアーを行いました。 その最終公演であり、結果として彼自身生涯最期のコンサートとなってしまった2017年9月25日のハリウッド・ボウルでは「American Girl」を歌う前に“俺たちにはもうほとんど時間は残されていないけど、ここでこの曲をやる時間は残されている”という意味深な発言をしていますが、「Free Fallin'」の生涯最期のパフォーマンスがファンによって投稿されています。
~Lyrics~
She's a good girl, crazy 'bout Elvis あいつはいい娘…エルヴィスにお熱を上げ Loves horses and her boyfriend too 馬も、ボーイフレンドも愛してる
エルヴィス・プレスリーは、トムに音楽への興味を芽生えさせた人。 1961年の夏、当時10歳だったトム少年は特にエルヴィスのファンだったわけではありませんでしたが、彼の叔父がエルヴィスの映画のスタッフを務めており、近くで撮影(翌年公開の『夢の渚 Follow That Dream』)があるから見に来ないかと誘われたのがきっかけでした。
All the vampires walkin' through the valley ヴァンパイアたちは皆、ザ・バレー(valley)を抜けてゆく Move west down Ventura Blvd. ベンチュラ大通りを西へと下り
トム・ペティはアメリカ東南部フロリダ州の出身ですが、バンド活動のため西海岸のカリフォルニア州ロサンゼルスに移住しており、歌詞には多くの地名が登場します。 【the valley】はロサンゼルス郡の一区[San Fernando Valley(サンフェルナンド・バレー)]を指しワーナー・ブラザーズ・スタジオやNBCスタジオなどメディア関係の会社が集中し、スターや業界人も多く住む華やかな地区です。
車のラジオからローリング・ストーンズの「Bitch」(下ネタ系の歌)が流れ、口ずさもうとしますが違和感からすぐチャンネルを変えてしまいます。 続くセンチメンタルなメリリー・ラッシュ「Angel of the Morning」、静かなグラム・パーソンズ「She」でもなく… 次のチャンネルから流れてきたのがこのフレーズ…
ただ、「Free Fallin'」の歌詞を見ていると何か不自然さがあって、スッキリしません。 その原因は3番の歌詞で、試しにこの部分を抜いて1・2・4番だけで構成するとストーリーがスッキリするのです。 1・2・4番では[a good girl]と[a bad boy]の物語で、3番だけ[the good girls]と[the bad boys]と複数形で表され全然別の話になっていることに気づきます。 これは個人的見解ですが、“「Free Fallin'」はトム・ペティの若かりし頃の淡い恋の歌で、照れ隠しに3番を入れたのでは?”…と。
そう考えてみると、あなた自身は全然解き放たれていなかったのでは…トム? (そういえばPVで[a good girl]が見つめる写真の男性って、たぶん若い頃のトム・ペティ?)