I Wish~洋楽歌詞和訳&解説

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「リスペクト」アレサ・フランクリン

2018.08.24

category : Aretha Franklin

Aretha Franklin - Respect1 Aretha Franklin - Respect2


Aretha Franklin - Respect (1967年)



~概要~

アレサ・フランクリンは“The Queen of Soul”と称され、歌手として後進に多大な影響を残しただけでなく、アメリカの文化や人権確立にも貢献した黒人女性歌手です。
1961年のデビュー以来数多くのグラミー賞をはじめ女性として初の『ロックの殿堂』入りを果たし、名だたる大物を退けローリング・ストーン誌が“100 Greatest Vocalists of All Time 1位”に選出した歌手こそ、アレサ・フランクリンでした(ちなみに2位はレイ・チャールズ)。

「リスペクト」はアレサがアトランティック・レコードに移籍して最初(通算10枚目)のアルバム『貴方だけを愛して(I Never Loved a Man the Way I Love You)』《写真・右》からの2ndシングルとして1967年4月にリリースされ、自身初となるBillboard Hot 100のNo.1(2週/年間13位)に輝いた作品です。
また翌年のグラミーでは、“Best R&B Performance”“Best Female R&B Vocal Performance”の2冠を受賞しました。
“Lady Soul”アレサを象徴する作品であり、ローリング・ストーン誌“The 500 Greatest Songs of All Time 5位”にも選出された楽曲でもあります。

「Respect」の作者はアメリカのシンガーソングライターのオーティス・レディング(Otis Redding)で、彼が1965年に自身のアルバム『Otis Blue』のために創作し、シングルとしてもBillboard Hot 100で35位を記録しました。
その2年後の1967年6月、30組以上のミュージシャンが出演した大規模な野外コンサート『モントレー・ポップ・フェスティバル(Monterey Pop Festival)』のステージでオーティスは同曲をパフォーマンスしていますが、この時リアルタイムでアレサのカバーver.が全米No.1に君臨している最中のことであり、マイナー・ヒットに終わった自作曲を“ある女性が俺から持ち去った曲だ。彼女は俺の友だちだけどね…”と苦しいジョークを入れて曲紹介しなければならない程、既に“「Respect」はアレサの歌”となっていたのです。

オーティスver.もアレサver.も男女がそれぞれ一方の言い分を主張するだけの内容となっていますが、男女双方の言い分としたのがダイアナ・ロス&ザ・スプリームスとテンプテーションズver.です。
ほかにもスティーヴィー・ワンダーやベンチャーズなどがカバーしていますが有名曲の割に目立ったものが少なく、近年はドラマ『glee』でメルセデス(アンバー・ライリー)が見事なパフォーマンスを披露しています。
一方でやはり圧倒的な存在感といえるのがアレサver.で、『アメリカン・グラフィティ2』や『フォレスト・ガンプ/一期一会』『ブリジット・ジョーンズの日記』ほか数十の映画のサウンドトラックで使用された上、1998年には『ブルース・ブラザース2000』にアレサ本人が出演し、改めて“女王”の圧巻のパフォーマンスを見せつけました。


 
 



~Lyrics~


Do me wrong, honey, if you wanna to
You can do me wrong honey, while I'm gone

俺が外に出ている間、‘後ろめたいこと’できる(望むなら)

I ain't gonna do you wrong while you're gone
あなたが外に出ている間、‘後ろめたいこと’なんてしない

アレサの「Respect」(下段)はオーティス・レディング(上段)のカバーですが、それぞれ“女性目線/男性目線”として描かれており、歌詞が異なる部分が多く見られます。

【do someone wrong】は“(人)に悪いこと[不義理]をする”ですが、この場面に於いて“悪いこと”とは具体的に何であるかは説明するまでもないでしょう。
興味深いのは男性のオーティスver.が“リスペクトさえしてくれたら俺の不在時に‘後ろめたいこと’しても構わない”とも受け取れるのに対し、女性のアレサは“するつもりもないし望んでない”と全否定していることです。


Take care, TCB
あなたが果たすべき務めに、気を配ってよ
Oh (sock it to me, sock it to me, sock it to me, sock it to me)
Oh (強烈な一撃をあたしに喰らわして…)

歌の後半はオーティスver.とは全く異なる、アレサver.独自のセンテンスになっています。
【TCB】は[Taking Care of Business]の略で、1960~70年代にアメリカの黒人らの間で流行ったスラングです。
ここでの“やるべきことをきちんとやる”は、もちろんビジネスのことではなく“彼女との関係に於いて”のことでしょう。

【sock it to】“(人)に一発ぶちかます”といった風なスラングで、当時近所の子どもたちが口にするほど流行っていたことからアレサが取り入れました。
【sock it to】はその意味が高じて“性的な意味合い”にも解釈できるフレーズですが、アレサ自身は1999年のインタビューで“It's not sexual”と否定しています。
一方、アレサが加えた歌詞には【sock】“強く打つ”、【whip】“むちで打つ”といった性的な意味合いを含む言葉が散見されるのも事実で、アレサのプロデューサーのジェリー・ウェクスラーは“露骨な淫らさと混ざりあった、尊厳に対する要請だった。行動を呼びかける歌や、愛や性をテーマにした歌は他にもある。しかし、それらをひとつに合わせた歌はなかなか見つけられないだろう”と本作を評しました。


All I want you to do for me
あなたにして欲しいことは、たった一つ…
Is give it to me when you get home (re, re, re, re)
それは、あなたが家に帰った時キスしてくれること!

彼女の望みって、コレのようです!
歌詞中で正確には【it】ですが、その直前の部分から[it=your kiss]と解釈しました。
コーラスの(re, re, re, re)は【respect】の略で、まるで“respectを込めたキス”を催促している?


You're runnin' out of fools (just a little bit)
でもあなたのおバカも、おしまい

アレサにはコロムビア・レコード時代の1964年のシングル(及びアルバム)に、「Runnin' Out of Fools」という作品があります。
ダイアナ・ロスが在籍したシュープリームス(The Supremes)1966年の作品「恋はあせらず」(過去ログ)にも、歌詞中に同グループの曲タイトル「You Keep Me Hangin' On」が仕込まれており、当時はこういうお遊びが流行っていたのかもしれません。





~Epilogue~

2018年8月16日、膵臓癌のため76歳で永眠した“The Queen of Soul”アレサ・フランクリン。
2009年に黒人初の大統領となり、就任式でアレサの歌声に涙したオバマ元大統領は彼女の訃報を受け、“彼女の声の中に、僕らは、僕らの歴史、パワー、痛み、暗闇、光、贖罪の探究、苦労して得たリスペクトを感じることができた”と、その死を悼みました。

翌2010年にアレサは体調を崩してコンサートが中止になるなど、当時も膵臓癌の噂がありましたが、思えばそこからの長い闘病生活だったのでしょう…。
アレサが亡くなった日、彼女のお孫さんが今年3月17日に自宅で弾き語りするアレサを撮影した映像を投稿しています。


「Respect」について“【公民権運動】や【フェミニスト運動】におけるアンセム(聖歌)”という定評がありますが、オリジナルのオーティスver.を含め歌詞を見る限り夫婦によくある“痴話喧嘩”であり、社会運動とか大それたテーマを狙った作品であるようには思えません。
むしろ当時アレサは実生活で夫婦問題を抱えており、「Respect」を発表した翌1968年には夫がアレサを公衆の面前で暴行した事件がタイム誌で報じられ、直後に別居・離婚する騒ぎに発展しているので、“「Respect」はリアルにアレサの夫への訴え”だったとも考えられます。

そのような歌が公民権運動やフェミニスト運動のアンセムにまでなったのは、何故でしょう?
そこには、当時アレサより遥かに有名なオーティスが「Respect」を歌ってさほど反響がなかったことにヒントがある気がします。
オーティスver.では男性が女性に対し“俺をrespectしろ”と訴えていますが、この場合少なからずの人は【respect】を“尊敬”と捉えることでしょう。
しかし“俺を尊敬しろ”という上から目線の訴えなんて、共感どころか反感さえ招きかねません。


All I'm askin'
あたしの頼みは一つだけ
Is for a little respect when you get home (just a little bit)
あなたが家に帰ったら、少しは“愛妻らしく扱って!

対してアレサは女性であり、恐らく多くの女性が男性に求める【respect】とは“尊敬”ではありません。
【respect】は本来“価値あるものに対しそれにふさわしい敬意を払う”意味であり、アレサによって加えられた【proper(適切な)】の単語がその心情を補足しています。
つまり主人公が夫に求めているのは“妻として相応しい敬意(愛情)”であり、しかも何度も繰り返し【just a little bit(ほんの少しでいいから)】と懇願しているのです。
社会に於いて不当な差別を受ける黒人であり、家庭に於いて不当な扱いに苦しむ女性が切実に訴えるからこそ、多くの人の共感を誘ったといえるのではないでしょうか…。

加えて、これが公民権運動やフェミニスト運動のアンセムとまで認識されるようになったのには、アレサ自身の成育に由来するものがあるかもしれません。
アレサのお父さんC・L・フランクリンは牧師であり、キング牧師とも親交のある有名な公民権運動活動家でした。
彼女はその影響で幼少から教会でゴスペルを歌ってきたわけですが、そんな経緯のあるアレサが“適切な敬意を払って”と歌うからこそ“特別な意味”が生まれ、歴史的な作品となった気がします。


2016年、「Respect」が社会に与えた影響についてアレサは語りました。
“あの曲で語られるメッセージはとても重要。私にとって重要なら、他の人にとっても重要だわ。私個人や市民権運動、女性にとってだけじゃなく、全ての人々にとって重要なはず…

たとえ小さな子どもでも、赤ん坊でも、
人間として、誰もが相手からリスペクトされる権利を持っている”


 R.I.P. Aretha Franklin



「リスペクト」


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tags : 1967年 ソウル 女の主張 偉大な曲 偉大な歌手 グラミー 追悼 

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