「ジーズ・ドリームス」はハートの8thアルバム『 Heart 』からの3rdシングルで、バンドとして初めて Billboard Hot 100 の No.1(年間33位)に輝いた作品です。 ハートのリード・ヴォーカルの多くはアン・ウィルソン( Ann Wilson )が務めていますが、本曲は妹でギタリストのナンシー・ウィルソン( Nancy Wilson )が初めてリードを執ったシングルでした。
8thアルバムのために、ジェファーソン・スターシップやサバイバーのプロデューサーとして知られたロン・ネヴィソン( Ron Nevison )が招聘されましたが、彼によると“ハートは当時20曲ぐらい用意していたけど、良いのはほんの数曲”と評されています。 ロンは他人の曲を入れて楽曲の質を高める必要性を感じ、以前プロデュースを手掛けた Wolf & Wolf のピーター・ウルフ( Peter Wolf )をレコーディングに参加させることにしました。
当時ピーターはスターシップの『Knee Deep in the Hoopla』もプロデュース中で、そこで楽曲を提供しているライターの一人マーティン・ペイジ(Martin Page)にハート向けの楽曲を照会したところ「We Built This City(シスコはロック・シティ)」と「These Dreams」を紹介され、ピーターは“「These Dreams」が凄くいい、これをやらせてみたい”と感謝の電話を入れています。 ピーターがデモを持ち帰り“ハートらしくないけど、とにかくカッコいいんだ”とメンバーに聴かせたところ好評で、中でも普段リード・ヴォーカルを執らないナンシーは“私のために書いてくれた曲?”と喜んだそうです。
Is it cloak n dagger それは“クローク&ダガー” Could it be spring or fall …それとも、春か秋?
【Cloak and Dagger】は直訳すると“外套と短剣”で、スパイ・ミステリー・暗殺といった要素を内包するシチュエーションを言及する言葉です。 この言葉からさまざまな創作が生まれていますが1984年にキャメル (Camel)やニック・カーショウがそれぞれ同名曲を発表、『E.T』のヘンリー・トーマス主演のファンタスティック・サスペンス映画『ビデオゲームを探せ!(Cloak & Dagger)』も同年であり、この頃そんな流行りでもあったのでしょうか…。
But the prince hides his face だけど、その王子は顔を隠している From dreams in the mist 夢の中の霧によって…
作品のテーマは【dream】ですが、それと同じくらいの比重を感じるのが、【mist】。 それもそのはず、本曲は元々「Boys In The Mist」というタイトルで、バーニー・トーピンがスティーヴィー・ニックスのために作詞したものだったそうです。 確かにフリートウッド・マックの「Dreams」が象徴する、ぼんやり霧がかってミステリアスな彼女の魅力はまさに【mist】のイメージですが、当のスティーヴィーはこの曲を断ったため、バーニーの【dream】は叶いませんでした。
しかしこの点は歌っているアン本人も気にしていて、ハートの代表作の一つであるにも関わらずライブでも歌うのを暫く避けてきました。 その後1994年夏にホームタウンであるシアトルで行った“アンプラグド”スタイルのステージでは、憧れのジョン・ポール・ジョーンズ(元レッド・ツェッペリン)に“独自の形で歌えばどう?”とアドバイスされ、“Love like strangers(見知らぬもの同士としての恋)”という歌詞を“Love like rain is falling(つまり、運命に引き寄せられるように恋に落ちたという意味合い)”に換えて歌っています。