I Wish~洋楽歌詞和訳&解説

80年代の洋楽ロック・ポップス&ビートルズを中心に、歌詞の和訳と解説+エッセイでお届けします

STOP!
地球温暖化/気象災害激甚化
Lil Dicky - Earth
Lil Dicky - Earth1
Beatles & Solo
Please Please Me


With The Beatles


A Hard Day's Night


Beatles For Sale


Help!


Rubber Soul


Revolver


Sgt Pepper's


The Beatles


Yellow Submarine


Abbey Road


Let It Be


Magical Mystery Tour


Beatles(the other songs)


John Lennon


Paul McCartney


Wings


George Harrison


Ringo Starr


「ジーザス・ヒー・ノウズ・ミー」ジェネシス

2022.09.05

category : Genesis+

Genesis - Jesus He Knows Me (1992年)

フィルの巧みな言葉紡ぎとヴォーカル、キレある演奏で聴かせるポップでシリアスなロックナンバー

《すべての記事を更新》いたしました。【続きはこちら>>】をクリックしてご閲覧ください。


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tags : 1992年 ロック/ポップ 宗教  

comment(4) 

「アナザー・デイ・イン・パラダイス」フィル・コリンズ

2019.03.29

category : Genesis+

Phil Collins - Another Day In Paradise (1989年)



~概要~

「アナザー・デイ・イン・パラダイス」はフィル・コリンズ1989年の4thアルバム『バット・シリアスリー(…But Seriously)』からの1stシングルで、Billboard Hot 100で4週 No. 1 (1990年の年間7位)に輝いたと同時に、これによって彼は4曲連続 No. 1の偉業も達成させました。
『バット・シリアスリー』は“世界で一番忙しい男”の1980年代を締めくくる作品ですが、この年代に彼はソロとジェネシス合わせて8作のオリジナル・アルバムを発表してその全てが英・米で Top 10 内というのは、改めて驚くほかはありません。

作者はもちろんフィル自身、コーラスには Crosby, Stills, Nash & Young のデヴィッド・クロスビーが参加しており、1991年の『第33回グラミー賞』では2人による本曲のパフォーマンスが披露されました。
そのグラミーに於いて「Another Day In Paradise」だけで4部門にノミネートされており、主要4部門の一つ【最優秀レコード賞(Record of the Year) 】を受賞しています。
また、同様に1990年のイギリス『Brit Awards』でも【British Single of the Year】を獲得しました。

フィル・コリンズというと「You Can't Hurry Love」(過去ログ)や「Two Hearts」のお茶目なキャラクターが印象的で、たとえ政治・社会問題をテーマとする楽曲であっても「Land Of Confusion」(過去ログ)のようにインパクトあるエンターテイメントに昇華させるアイデアとサービス精神が持ち味といえますが、「アナザー・デイ・イン・パラダイス」ではこうした娯楽性は一切封印され、まさに『…But Seriously』な作品となっています。
PVでもそうした“真面目さ”が貫かれており、冒頭で青い地球がセピア色に変化すると、路上生活者の困窮する写真や【One Billion People Have Inadequate Shelter】【3 Million Homeless In America】【100 Million Homeless Worldwide】といった問題の切実さを訴える映像も込められ、【グラミー最優秀ミュージック・ビデオ:短編部門】にもノミネートされました。


 



~Lyrics~

She calls out to the man on the street
道端で女性が男に呼び掛けている
"Sir, can you help me?
“旦那様、お助けくださいまし

「Another Day In Paradise」は、路上生活で各地を転々としている女性に焦点が当てられた物語。
ただ、フィルによると当初からホームレスをテーマとするつもりで創作が始められたものではなく、ピアノを弾いて作曲していると、自然と口からこぼれたのが【She calls out to the man on the street】のフレーズだったといいます。

またホームレスについては、アメリカ・ワシントンD.C.に行った時、国議会議事堂を囲む地域(Capitol Hill)にさえ箱に暮らす人々がたくさんいて驚いたことが着想となっているそうです。


He walks on, doesn't look back
男は歩き続け、振り返らない
He pretends he can't hear her
聞こえないふりをして

一方で、物語に登場する【He】も多くの人にとって“心当たりのある誰か”として印象的でしょう。
実際フィル自身も、ロンドンで2人の子供を連れたホームレスの女性がお金を懇願している所に遭遇したことがあり、そのとき彼も“見て見ぬふりする誰か”となってしまったそうです。

この問題の難しさは、たとえ【He】が彼女に一時的なお金をあげたとしても“それが切れたらまた同じ日々を繰り返すだけ”だろうし、彼女の一生を面倒見てあげたとしても“他に多数いるホームレスはどうする?”という根本的な問題の解決にはならないことでしょう。
彼女を救うためには、彼女の仕事や住居・健康など社会人として自立できるだけの多方面かつ継続的な支援が必要であり、とうてい見ず知らずの“一個人の善意”で賄えるものではありません。

では、どうすればいいのか…
続きは、記事後半で



~平成...富める者と貧しき者とのあいだには今日も冷たい雨が降る~

「Another Day In Paradise」がリリースされた西暦1989年は、日本の元号・平成元年という新しい時代の幕開けでもありました。
中国では【天安門事件】が発生し、欧州でも【ベルリンの壁崩壊】、米ソ首脳間で【冷戦の終結】が宣言され、日本でも【天皇の崩御/即位】、10月に【三菱地所がロックフェラー・センターを買収】、12月29日には[【日経平均株価が史上最高値38,957円44銭を記録】するなど、まさに激動の年でした。

【消費税の導入】も1989年(平成元年)のことで、翌1990年の政府による金融機関に対する【総量規制】政策などにより日本経済は急激に悪化、そのさまは【バブル崩壊】と形容され、1994年に放送されたドラマ『家なき子』で安達祐実(当時12歳)の決めゼリフ“同情するなら金をくれ!”は、当時の世相を象徴していました。
以来、平成は【失われた20年】とか【失われた30年】と評される一方、政府は今年1月、第2次安倍内閣が発足した2012年12月から数えて【74か月(6年2か月)景気回復が連続し戦後最長】という見解を主張しています。

景気回復実感せず84% 共同通信世論調査/2019.03.10.

しかし、国民の殆んどは『戦後最長』どころか「景気回復」さえ実感できていません。
(「実感している」は10.1%)
それを裏付けるかのように3/19・日本経済新聞『賃金水準、世界に劣後 脱せるか「貧者のサイクル」』は、【過去20年間の時給をみると日本は9%減り、主要国で唯一のマイナス】と報じました。
経済協力開発機構(OECD)による残業代を含めた働き手1人/1時間あたりの総収入を1997年⇒2017年で比較すると、イギリス+87%、アメリカ+76%、フランス+66%、ドイツ+55%、韓国に至っては2.5倍と増加しているのに対し、日本は-9%と減少し先進7カ国中・最下位/OECD加盟36カ国中20位です。

Phil Collins - Another Day In Paradise1
日本経済新聞『賃金水準、世界に劣後 脱せるか「貧者のサイクル」』 / 中原圭介氏『日本の国難』

2013-15年は「景気拡大」のはずなのに実質賃金はリーマン・ショック期並みに下落

厚労省の『毎月勤労統計調査』のデータを分析した経済アナリストの中原圭介氏によると、“2007年~2009年(リーマンショックをはさんだ3年間)の実質賃金の下落率が-5.4%”であったのに対し、“2013年~2015年(第2次安倍内閣発足後の3年間)の下落率は-4.6%”だったと指摘しています。
グラフ《写真・右》を見ると分かるとおり2014年に実質賃金が名目賃金を下抜くほど落ち込んでおり(リーマン時でも交わっていない)、アベノミクスによる円安誘導で生じた“食料品やエネルギーなど生活必需輸入品の大幅な上昇(円安インフレ)”と、“消費増税”という大きな国民負担を重ねた上、“名目賃金がまったく増えなかった”ため、実質賃金が世界金融危機のときに迫る暴落となったと中原氏は結論付けました。
つまり、たとえ賃金の額面だけ増やしても、それ以上に物価を上昇させていたのでは2012-18年で消費者物価指数は6.6ポイント上昇)、いつまでたっても一般国民が景気回復を実感できることはないということです。


Phil Collins - Another Day In Paradise2
財務省 一般会計税収の推移

国民がいつまでたっても景気回復を実感できない理由は、それだけではありません。

「平成=消費税の歴史」であり、平成元年に消費税3%が導入され、以後5%⇒8%と税率を増やしましたが、一般会計での税収総額が平成2年度の60.1兆円を上回ったことは30年度までで一度もなく(2019年度で初めて上回る)、これは消費税を増やした分、所得税と法人税を減らした政策によります《写真》。
平成元年度と30年度を比較すると税収は所得税(-2.4兆円)、法人税(-6.8兆円)、消費税(+14.3兆円)と負担割合が様変わりしており、この間の税制変更は“富裕層と企業の税負担を軽減し、その分を一般消費者へ転嫁させた”と見ることもできるでしょう。

さらに、平成で税金以上に国民負担が増えているのは「社会保険料」で、この2つに財政赤字を含めた「国民負担率」は平成2年度の38.5%⇒48.7%(30年度)まで拡大されました。
また、総務省『家計調査』によると、平成30年間で最も増えた家計支出(月額)は①「税金・社会保険料(+約3万円)」であり、以下②「通信(+約1万円)」、③「光熱・水道(+約5900円)」、④「保健・医療(+約3900円)」、⑤「教育(+約3800円)」となっています。


一方、バブルの絶頂にあった平成元年に企業の時価総額で世界Top 10のうち7つを占めていた日本企業も、2019年3月現在はトヨタ自動車が45位に入るのがやっとという凋落ぶりです。
しかし国内に於いては、それと矛盾する不可思議な現象が起きています…。
平成元年度に116億円だった日本企業の内部留保は15年度に185兆円、とりわけ安倍政権下で各社過去最高益決算を連発し、平成29年度には内部留保を446兆円まで急拡大させているのです。

この不可思議なカラクリを解くヒントは、昨年10月31日の参院本会議で行った共産党・山下芳生副委員長の代表質問にあります。
それによると、1989-2018年度までの「平成30年間に国民から徴収された消費税は累計372兆円企業が減免された法人3税は291兆円」に及ぶとのこと(安倍首相は異議を唱えなかったので数字に間違いはないでしょう)。
これに、圧倒的に人件費の安い非正規・派遣・外国人労働者雇用の規制拡大を認める法制度と円安誘導を政府・与党がサポートしたら、446兆円という途方もない蓄財も夢ではありません。
つまり近年の企業の好調は自力の業績拡大というより、政府の「法人減税・円安誘導」に依存した収益底上げと、企業負担を肩代わりする「消費増税・円安インフレ」への国民の忍苦によって成り立っているとは言えないでしょうか…。





~毎月勤労統計不正の背後に潜むものの“正体”?~

のべ2千万人に567億円の損害を与えた、厚生労働省による『毎月勤労統計不正問題』。
問題発覚当初から違和感が収まらないのは、彼らが「なぜ平均給与を低く算出し」「なぜ不正を長年続けたのか」です。
そもそも官僚や一省庁にそんな事を自発的に行う旨味はないし、毎月勤労統計という「基幹統計」を偽ることで多くの保険対象者に被害が及び、このデータを活用する世界中のあらゆる機関を欺く責任と比べれば全く釣り合いません。

ただし、「後ろ盾」からの“リクエスト”があれば事情も変わります…。

労働者賃金の指標である毎月勤労統計のデータが実情より低い数値で表されて、「得をするのは誰」でしょう?
真っ先に浮かぶのは、労働者に賃金を払う側の「企業経営者」で、割安で労働者を雇った分を自分の利益に上乗せできます。
後はその要望を経営者団体の総意として、「政治献金」や「天下り先」の提供を引き換えに政治家や各省庁に“リクエスト”するだけ…。

過去ログ「エヴリー・リトル・シング」ビートルズの記事では、【2000年からの16年間でG7各国の名目賃金が1.4倍前後に上昇しているのに、日本だけ賃金が低下した】ことを話題に挙げましたが、これは厚労省が【平均給与を低く算出】し始めた時期(2004年からとされているが、それ以前からやっていた可能性が高い)や、不正で導かれるであろう方向性とも見事に重なっており、日本だけこうした不自然な現象が重なって起きていることを“ただの偶然”であると、あなたは思えますか?

Beatles - Every Little Thing3 NHK『クローズアップ現代+』より



~Epilogue~

【平成】という時代…
日本はその幕開けと共にバブルが崩壊し、大手金融機関が次々と破綻するなど、経済は深刻な事態に陥りました。
そこで企業経営者らが打ち出した方針は、1995年5月に日経連(2002年に経団連と統合)が出した「新時代の『日本的経営』」で労働者を【長期蓄積能力活用型】と、有期雇用の【高度専門能力活用型】【雇用柔軟型】の3つのグループに分類したことが象徴しており、その根底には経営者側の“人材は安く、いつでも切れるように”の本音が透けて見えます。


果たしてその後の日本の経済政策は、職業安定法が不当な中間搾取を招くとして禁じてきた人材派遣をあらゆる業種に開放、外国人を「技能実習生」としてタダ同然で働かせる仕組みを構築し、平成30年間で非正規労働者を約800万人から2120万人(労働者全体の37.9%)まで増やして経済団体の要望どおりに人件費抑止に協力してきました。
平均年収でいうと現在も429万円と、30年前と同水準を維持していることになっていますが「平均」という概念がクセもので、平均175万円という低年収の非正規労働者が1300万人以上増えて同水準ということは、それを穴埋めするほど富裕層が潤っている実態を指し示しているわけで、戦後昭和の「一億総中流」はもうこの国にはないのだと改めて痛感させられる思いです。


「Another Day In Paradise」は、ホームレスという社会問題をテーマとして扱っていますが、本当の主人公は歌詞中の【He】で、“【社会問題を見て見ぬふりする大衆】こそ、より深刻な社会問題”の趣旨であると、私は解釈しています。
つまり一つひとつの社会問題も大事であるが、社会を構成する大衆がそれに関心を示さず“自分に関係ない”と見て見ぬふりをする風潮は、あらゆる社会問題の誘因となる、ということです。
以前見たNHK『難問解決!ご近所の底力』で、落書きに困っている商店街がみんなで協力し徹底的に落書きを消して町をきれいにする活動を行ったところ落書きされなくなった、という例がありました。
恐らくこれは地域の多くの人が清掃に参加したことが大きく、多くの人が落書き行為に対してはっきり“No!”の意思を示したことで、落書きをする側に対し大きな抑止効果となったからではないでしょうか…。

政府・省庁が献金や天下りをもらって経済界の言うがまま彼らに利益誘導し、彼らが得した分を国民が払わされてきた問題も同じです。
自分たちがそんな目に遭わされているとも想像せず、不正や理不尽な政治にはっきり“No!”の意思を示さず、半分の人は選挙にも行かない状態が続いたら、政府の邪心に抑止は働かず、これからも彼らは「パトロン」のための“一部の奉仕者”となって、せっせと国民の富と労働力を彼らの元へと移転させ続けることでしょう。

また、沖縄だけでなく、日本各地で政府による民意を無視した強引な乱開発が進められていることを、あなたはご存知でしょうか?
こうした理不尽について“自分に関係ない”と関心を抱かず見て見ぬふりをしている自分がいるとしたら、それはあなた以外の全国の人々にとっても同じことで、もしあなたの町が理不尽を押し付けられることになったとしても、全国の人々にとってそれは他人事であって、誰もあなたを助けてくれる人はいないのです。

「見て見ぬふりする大衆」は支配者にとって好都合…

それを巧みに利用し強固な独裁体制を築いたのがドイツのアドルフ・ヒトラーで、政府の圧倒的力をもって反抗する弱小勢力を一つひとつ殲滅していきました。
そのさまを端的に表したドイツ人・マルティン・ニーメラーの詩があります。

“ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった
私は共産主義者ではなかったから
社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった
私は社会民主主義ではなかったから
彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった
私は労働組合員ではなかったから
そして、彼らが私を攻撃したとき
私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった”


             Friedrich Gustav Emil Martin Niemöller

Oh think twice, cause it's another day for
もう一度、考えてごらん…
いま楽園の中にある、あなたと僕にとって

You and me in paradise
今日とは違う“また別の日”のことを



「アナザー・デイ・イン・パラダイス」


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tags : 音楽 Lyrics 和訳 洋楽 

comment(12) 

「夜の囁き」フィル・コリンズ

2018.09.07

category : Genesis+

Phil Collins - In The Air Tonight1 Phil Collins - In The Air Tonight2


Phil Collins - In The Air Tonight (1981年)



~概要~

看板であるピーター・ガブリエルが去ったジェネシスを、より大きな成功へと導いたフィル・コリンズ。
本作はそんな彼にとって、輝かしいソロ・キャリアの第一歩となるデビュー曲です。
「夜の囁き」は1981年2月発表のフィルの1stソロ・アルバム『夜の囁き(Face Value)』の先行シングルとして同年1月9日にカットされ、全英2位/アメリカBillboard Hot 100では19位を記録しました。
シングルはジョン・レノンの「Woman」に全英1位を阻まれたものの、アルバムは全英初登場No.1を達成し、274週チャート・インという超ロング・セラーに輝いています。

フィルは80年代に“世界で一番忙しい男”と称されましたが、その数年前のこのころ既にスケジュールは過密で、ジェネシスのアルバムをおよそ年1枚発表しながら、こうしてソロとしても並行し創作していました。
『夜の囁き』の作品群は比較的インターバルの長い『そして3人が残った』(78年)~『デューク』(80年)までの合間に創作の起源があるとされていますが、この期間はフィルの私生活にとって大きな変化があった時期でもあります。
当時彼は1975年に結婚した妻アンドレアとの間に夫婦問題を抱え、1980年2月に離婚に至っており、本作に重苦しさが漂っているのはこのためです。

本曲の大半はリズムボックス【ローランドCR-78】によって生成された単調で静かなサウンドですが、後半劈(つんざ)くように入ってくるドラムス(ファンは“magic break”と呼んでいる)を号砲とするかのように、それまで抑えていたフィルの感情が堰を切って溢れ出し、悲鳴へと移り変わるさまが聴き所となっています。
フィルは当初ジェネシスの作品として提供するつもりでしたが、メンバーから“シンプル過ぎる”と反対されとりやめました。
また、本作プロデューサーのヒュー・パジャム(Hugh Padgham)は80年代以降フィルやジェネシス、ポリスやスティング、ポール・マッカートニーなどのヒット作の多くに携わるなど名プロデューサーとして有名ですが、彼にとってもその名声を得る第一歩となったのが「In The Air Tonight」でした。

意味深な歌詞はスタジオのセッションの中で、感情のままを口に出して即興的に歌ったもので、録音したそれを後で聴き直し正式に歌詞として書き留めたそうです。
PVもそんなフィルの感情を投影してか全体的に暗いモノクロが基調で、彼の姿からは強い“孤独”と“怒り”を感じ取ることができるでしょう。
前半の真っ暗な部屋で独り悶々と不健全なエネルギーを貯め込んでいる姿と、後半ドアがたくさんある空間を探し回り、4番目のドアを開けるとサウンドが爆発し、“何かが起こった”ことを想起させます。


ただし、本曲が特に広く知られるようになったのは作品発表から3年後、1984年にアメリカのドラマ『特捜刑事マイアミ・バイス(Miami Vice)』のサウンドトラックに起用されてからでしょう。
「In The Air Tonight」が使用されたのはその第1回(パイロット版)、『血闘サブマシンガン!巨大組織を叩きつぶせ!(Brother's Keeper)』です。

物語序盤からソニー・クロケット刑事は警察の内部情報が麻薬密輸組織に流れている疑念を抱いており、終盤でその犯人が自分と長年家族ぐるみの付き合いをしてきた仲間であったことが判明します。
絶対の信頼を寄せていた仲間の裏切りへの怒りと、彼が“売った”情報によってソニーの相棒が命を落とした哀しみを背負い、後に“新たな相棒”となるニューヨークの刑事リカルド・タブスと共に麻薬密輸組織摘発へと乗り込む道中に「In The Air Tonight」が流れます。
無機質に回り続けるタイヤ、黒いボディーに流れゆく街の光、愛車が主人の心を映し、彼を覆う暗闇「In The Air Tonight」…“MTV Cops”として人気を獲得した同シリーズの魅力を集約した屈指の名シーンです。


 



~Lyrics~

Well if you told me you were drowning,
ところで、溺れるお前が助けを求めてきたとする
I would not lend a hand
…だが俺は、お前に手を貸さないだろう

「In the Air Tonight」で最も印象的なこのフレーズはロック界でも有名な都市伝説の一つとなっていて、いろいろ“尾ひれ”がついています。
その一つを紹介すると、“少年時代のフィルが誰かを溺れさせている男を(救助できないほど)遠くに発見し、後年探偵を雇って犯人を見つけ出すと「In the Air Tonight」を初演する彼のコンサートへ無料で招待し、終始その男にスポットライトを浴びせた”…という話。

この伝説は世代をも超える影響力を持っているようで、2000年にエミネムは「Stan」の歌詞の中に【You know the song by Phil Collins "In the Air Tonight" / About that guy who coulda saved that other guy from drowning】とこの場面を参照し、“(この歌のように)君は僕を溺死から救える(のに見殺しにしようとしている)”と、ストーリーを展開させています。

 

And I've been waiting for this moment for all my life, oh Lord
ずっと待ち続けたこの瞬間...
Can you feel it coming in the air tonight, oh Lord, oh Lord
お前も、それを感じるだろう?

もちろんこうしたあらゆる都市伝説の類いを否定する一方でフィルは、これを1980年に“離婚した妻への‘たくさんの怒り’、‘たくさんの絶望’、‘たくさんのフラストレーション’”であることを認めています。
一説によると奥さんは【ペンキ塗りの男性】と恋仲になって出て行ってしまったらしく、その後フィルが「In the Air Tonight」を作曲し、イギリスのテレビ番組『Top of the Pops』に出演した際、“ある仕掛け”をして奥さんへの強烈な反撃を試み、彼女に“私へのメッセージだと、すぐに分かったわ”と言わしめたそうですが…

実際の映像で確認してみると、確かに“キーボードの横”にそれを示す【ブツ】があるっ!! 



~I can feel it coming in the air tonight, oh Lord~

昼の光は、それがどんな形をし、どんな色をしているか明らかにし、夜の暗闇はそれを覆い隠します。
しかしどんな暗い闇に身を潜めようと、形や色はわからなくても、そこに存在する“真実”まで秘匿するのは容易なことではありません。

I can feel it coming in the air...
何故なら、空気の中にそれを感じることができる…


【闇に覆われた『安倍晋三宅火炎瓶投擲事件』の真実とは?】

2000年6月(~8月)に発生した、『安倍晋三宅火炎瓶投擲事件』をご存知でしょうか?
山口県下関市にある安倍氏の自宅や地元事務所が、暴力団らによって放火された事件です。
一面的に見れば安倍氏は被害者ですが、その背景にある真実はメディアによって長年秘匿されてきました。
まずは、その概要をご紹介いたしましょう(※詳細はリテラを参照)。

事の始まりは1999年4月の下関市市長選に際して、安倍氏子飼いの江島潔氏を当選させるため、安倍事務所が「わしは安倍先生の熱心な支援者」と公言する土地ブローカー(仲介人)のK氏(前科8犯/暴力団関係者)に、対立候補への選挙妨害工作の協力を依頼したことです。
安倍事務所のS秘書とK氏は選挙の半年前と選挙期間中の2回、「対立候補は北朝鮮国生まれ」などデマ情報のビラを何万部も各家に投函し、江島氏が当選しました。
しかし「見返り」を巡って両者は対立、怒ったK氏は福岡の暴力団組長らに報復を依頼し安倍氏自宅などへの放火が実行された…という背景があるとされています。

しかし被害者である安倍氏側には事前に「明確なトラブル」を抱え放火犯の特定は容易であったにも拘らず、実際に犯人が逮捕されたのはそれから3年も経った2003年になってのことで、それも他県の福岡県警による暴力団一斉摘発捜査の過程から偶然に本件が明るみになったのがきっかけでした。
何故なら所管の山口県警は当初から本件の事件化に消極的で、背景には安倍氏側に「事件化すれば安倍事務所による選挙妨害工作が白日となり、安倍氏の政治生命さえ危うくなる」事情があり、安倍氏のT筆頭秘書(元山口県警・警視)を通して「山口県警の捜査方針に影響を与えた」ともいわれます。

ただ、この時点で「安倍事務所による選挙妨害工作」についての根拠が証言にとどまっていたため『噂の真相』など、ごく一部のメディアしか報じませんでした。
第1次安倍政権が誕生した直後の2006年10月、『共同通信』が拘留中のK氏に面会、【安倍氏のT筆頭秘書とK氏が交わした念書】の存在を確認し【双方が事実を認める】段階までこぎ着けたものの、官邸からの嫌がらせを恐れた上層部の判断で記事は差し止められたことにより、現在に至るまで殆んど報じられることがありませんでした。


【2018年、安倍事務所による選挙妨害工作の物的証拠「念書」の公開】

ところが今年5月、『噂の真相』時代から本件を追い続けてきたジャーナリスト・山岡俊介氏が、13年の刑期を終えて出所したK氏の取材に成功し、【安倍氏のT筆頭秘書の署名・捺印入りの3通の念書】の現物を確認できたことから、自らの運営するサイト『アクセスジャーナル』で告発に踏み切りました。
ポイントは、以下のとおりです(※詳細はリテラを参照)。

《念書は、正確には「確認書」×2、「願書」×1》

「確認書」は発言・日時などの合意確認書? もう1枚はK氏からの要望書らしい…。
(「(対立候補者名)潰しの件(S秘書よりの依頼)安倍代議士に報告し、代議士含めK氏とお話をさせて頂きたいと思っておりますと言われた事。」に着目)

「願書」はT筆頭秘書からK氏への願書で、「K氏・安倍代議士(1対1)で話合いする事、勝手ながら決めさせていただきました。大変お忙しい中、お手数おかけいたしますが、安倍事務所へお越し頂けますよう、何卒、宜しくお願い申し上げます。」と書かれています。

つまり、
「対立候補者潰しの件でK氏と安倍氏が1対1で話合う段取りを決めたので、安倍事務所へ来られたし」
…というT筆頭秘書署名・捺印入りの書類
が、今回出てきたのです。

 
左の動画は山岡俊介氏による解説、右はK氏の証言の一部。


【告発者二人は、「その後」…】

この念書については、これまでK氏は「これがあるかぎり絶対に捕まらん」と関係者に漏らしていたとされ、裁判でも一切、念書のことは持ち出さなかったそうです。
山岡俊介氏の取材の後、K氏は山岡氏の仲介で『週刊新潮』のインタビューにも応じる予定でしたが突如新潮の取材を断り、途中から連絡が取れなくなってしまったといいます。
安倍氏側から「何らかの接触」があったか、「命のお守り」でもある念書を公開してしまった以上…?

更に気になるのは、一連の告発を続けてきた山岡俊介氏が8月7日夜、新宿アルタ横の階段から転落し、右肩骨折/頭部7針を縫う重傷を負ったと報じられています。
命に別条はなかったというものの、果たして…。



~今も、昔も変わらない“構図”~

今回、20年近い昔に起きた『安倍晋三宅火炎瓶投擲事件』とその背景を調べてみて、近年世間を騒がせた『森友学園事件』と“似た構図”に思えました。
K氏と籠池理事長という“同じ匂いの人”と組んで悪事を働き、不都合になったら“シッポ切り”して、怒った彼らの“反撃を喰らう”…。


“似た構図”といえば、ここでもやっぱり『加計学園』に行き着いてしまうことです。
安倍氏が下関市市長選で不正な選挙妨害工作してまで“えこひいき”した江島潔氏は、安倍首相と同じ下関市に由来があり、互いの父も同じ自民党の派閥「清和会」に属した古くからの間柄。
2009年まで下関市長、2013年から参議院議員に転身していますが、その間2010年からは加計学園系列の「倉敷芸術科学大学」の客員教授を務めました。

“同じ構図”は安倍首相の側近中の側近・萩生田光一元官房副長官にも当てはまり、落選中の2009年から加計学園系列の千葉科学大学で、また元首相補佐官の井上義行参議院議員も退官後に千葉科学大学で、それぞれ浪人中に同大学の客員教授として迎え入れられています。

もちろん加計学園が一方的に安倍首相に奉仕しているのでは決してなく、千葉科学大学学長の木曽功氏は内閣官房参与、木澤克之・元加計学園監事は最高裁判事に就任、さらに加計学園系列への国・自治体からの補助金が176億円にも上るといわれ、これら「彼らの個人的恩義の代償は何れも国民の税金で払われている」のです。


また、下関市市長選での安倍事務所による対立候補への選挙妨害工作と“似た構図”を思わせるのが、近年「確信犯でデマやヘイトを流す汚い選挙」です。
今年2月の名護市長選での「内地から2000世帯移動」や、6月の新潟県知事選で「候補者が[拉致問題は北朝鮮の創作]と言った」など、およそ根拠のない悪質なデマが常態化しているのは、“ボス”の戦い方に倣ってのことでしょうか…。


そして【安倍支配の本質】と言ってもいい“同じ構図”は、「警察を飼い馴らしそばに置く」こと。
警察の捜査手法や能力を知るOBや高官を厚遇してそばに置いておくと、彼らの手の内を事前に知って「作戦」を立てられるし、万が一自らが捜査の対象になりそうな時でも、彼らを抑え、事件をもみ消す「最強の番犬」となってくれます。
近年の森友・加計疑惑でも見られた、たくさんの証拠が出たのに結局「警察・検察が事件化しない」ことで逮捕・起訴という致命傷を免れ、未解決のままうやむやにして有権者の倦怠・忘却を待つ…といった手口は、まさに『火炎瓶投擲事件』の真相をもみ消した手法そのものです。
「警察は際立った強制力を持った組織」であり、「法の番人」の名の下に安倍首相に逆らう不埒者を排除する手足にもなり得ます。

警察を子飼いにするメリットはそれに止まらず、情報収集や捜査活動のプロである彼らの能力はさまざまな局面に重宝します。
とりわけ安倍首相が重用しているのが杉田和博内閣人事局長北村滋内閣情報官という2人の警察官僚。
2人が属した『内閣情報調査室(内調)』本来「内閣の重要政策に関する情報の収集・分析」が職務ですが、安倍政権下では内閣の重要政策に関係ない街頭演説での「ご当地ネタ」の収集であったり、現在行われている自民党総裁選では対立候補の石破茂・元幹事長の講演会など公式の発言に加え、非公開の場での発言まで収集していると報じられます。
内調の活動は選挙に止まらず、「知人と会食の場で漏らした安倍首相への不満で更迭」された森本康敬・韓国・釜山の総領事や、意見が対立した前川喜平・前文科次官を「退官後も私生活を監視」していたのも、内調や公安警察ではないかといわれています。



~Epilogue~

今回の総裁選に際して、「正直、公正」をスローガンに掲げ立候補した石破茂元幹事長。
これに対する自民党の反応は、石破支持を表明した竹下派の吉田博美参院幹事長の「相手を個人的なことで攻撃するのは非常に嫌悪感がある」が象徴しています(実は吉田氏は安倍首相に近い人物)。
しかしこれは安倍首相周辺で起きた数々の疑惑が「安倍氏自身の嘘、えこひいき」に基づいて生じたと考えられるからであって、問題に1年以上費やした先の国会終了後の世論調査「森友・加計問題に納得せず75%(納得14%)」が指し示すとおり、一般国民との認識がズレているのは安倍首相を支持する自民党の方です。

自民党はこうした石破氏の投げ掛けを「野党みたいな批判」と非難していますが、まるで他人事です。
これは「自民党の総裁にかかった疑惑」であり「自民党自身が解決する責任の問題」であり、政権外にあって他党である野党の問題ではありません。
自民党が自らの責任を果たそうとせず、国の統治システムに悪影響を及ぼしているから野党や国民が批判しているのに、責任を他人に転嫁しているだけです。
当たり前の組織であるなら、いつまで経っても自らの疑惑を晴らせず問題解決できない組織のトップに対し、内部から自浄作用を働かせ責任を取らせるものですが、こんな状況にあってさえ「安倍さんしかいない」と三度目の神輿を担ごうというのですから、国政与党としてあまりに心許ないといわざるを得ません。

しかし余人はともかく、お伝えしているように安倍晋三氏はそれが事実なら犯罪の数々を犯した容疑のある人物です。
警察・検察が事件化しなかったため、あるいは警察・検察・国税庁・暴力団…あらゆる手段を用いてメディアや事件関係者の口を封じてきたために逮捕を免れてきた疑いがあります。
法治国家に於いて“法の番人”が「正直、公正」の魂を捨て、時の最高権力者に阿(おもね)り、番犬として“飼い主の敵”を取り締まり始めたらどのような末路を迎えるか、戦前のこの国の歴史が指し示しているはずです。

国民の約0.8%(自民党員)が賢明な判断を下すことを、残り99.2%の国民は願っています。



「夜の囁き」


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tags : 1981年 ニューウェイヴ 男の主張  ヒュー・パジャム マイアミ・バイス  

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「ランド・オブ・コンフュージョン~混迷の地~」 ジェネシス

2017.01.13

category : Genesis+

Genesis - Land Of Confusion1 Genesis - Land Of Confusion2


Genesis - Land Of Confusion (1986年)



~2017年は【相剋】の年?~

2017年の干支は十干(じっかん)が丁(ひのと)、十二支が酉(とり)で、“丁酉”(ひのと・とり)です。
丁(ひのと)は[火の弟]とも書き五行思想で“火の性質”を持ち、酉(とり)は“金の性質”を持ちます。
火と金を組み合わせると火は金属を熔かしてしまうので、火が金属に打ち勝つ[火剋金(かこくごん)]の関係。
つまり丁酉は一方が他方を打ち滅ぼす【相剋】の組み合わせであり、“相いれない二つのものが、互いに勝とうとして争う”意味となります。

古(いにしえ)の格言が現在の世界の風潮を予言しているようで、何だか胸騒ぎ…。



~概要~

「ランド・オブ・コンフュージョン~混迷の地~」は1986年に発表されたジェネシスの13thアルバム『インヴィジブル・タッチ (Invisible Touch)』の収録曲で、3rdシングルとしてBillboard Hot 100の4位(1987年の年間40位)を記録しました。
本作のシングル・ジャケットを見て、“何か”を思い浮かべた方もおられるでしょう…
このジャケットはビートルズの2ndアルバム『With the Beatles』のパロディーであり、本作以外にもこれまで多数の“迷作(?)”を生んでいます。

Genesis - Land Of Confusion3 Genesis - Land Of Confusion1

作詞は過去にご紹介した名作「The Living Years」の作者で、ギタリストのマイク・ラザフォード。
「Land Of Confusion」という“さも事情ありげ”なテーマを掲げた本作ですが、ヴォーカル・レコーディングの直前にマイクはインフルエンザにかかってしまい予定日までに作詞が完成されていなかったようで、当日も自宅で高熱を出して寝込んでいたところを訪れたフィル・コリンズに、枕元から“マイク自身が【confusion(混乱状態)】”で歌詞を口述して書き取ってもらった事情があったそうです。
しかしその内容はマイク本人が“こんなにも素晴らしい世界に生きているのに、僕ら(人間)の生み出すものは混乱ばかり”という気持ちを込めた大真面目なものとなっています。

パペット(puppet)を全編に用いた楽しいミュージック・ビデオはジェネシス一個というより80年代を代表する名作で、1987年のグラミーで“Best Concept Music Video”を受賞しました。
社会問題をテーマとしているだけあって世界の政治家のパペットが多数出演(別項参照)しており、その他ジェネシスのメンバーをはじめ数え切れないほどの有名人(…と、思われる)パペットが登場します(※以下、ビデオに登場するキャラクターや作品の名前は全て推定としてハナシを進めます)。
一例を挙げてみると音楽界からプリンス、ピート・タウンゼント、デヴィッド・ボウイ、ボブ・ディラン、ミック・ジャガー、ティナ・ターナー、マイケル・ジャクソン、マドンナ、「We Are the World」、映画界からレナード・ニモイ、『2001年宇宙の旅』、プロレス界からハルク・ホーガン、そしてスペシャル・ゲストとして教皇ヨハネ・パウロ二世がエレキ・ギターを披露していますョ! 

その他に、「Land Of Confusion」は80年代を代表するアメリカのドラマ『Miami Vice』シーズン5最終話「Freefal」に使用されました。
2006年にはアメリカのHMバンドのディスターブド (Disturbed)によってカバーされており、そのアニメMVにはジョージ・W・ブッシュ、プーチン、シラク、ブレアといった当時の各国首脳が登場し、その中には日本の小泉純一郎首相の顔もあります。

 



~Lyrics~

I must've dreamed a thousand dreams
もう千回も見ただろう
Been haunted by a million screams
百万の悲鳴にうなされる夢



壮大なストーリーを展開するPVは、実はその主人公を演じるロナルド・レーガンが俳優時代の1951年に主演したコメディー映画『Bedtime for Bonzo』のパロディーとなっています。
映画では、犯罪歴のある父をもつ心理学者のレーガンが学部長の娘と結婚するために[Bonzo]というチンパンジーに人間のモラルを覚えさせることで、遺伝より環境が重要であることを証明する(=結婚を許してもらう)というストーリーになっていて、後に大統領にまでなったレーガンがチンパンジーに翻弄される内容から、格好の“ネタ”にされた代物です。

そしてPVでは、レーガンが眠りに就いた夢の中でストーリーが展開してゆきます…。
(ちなみに、ベッドで彼の隣にいるのは奥さまのナンシー・レーガン)


Too many people
ひしめき合う人の群れが
Making too many problems
次々と、難題を生み出してゆく

夢の中では“多くの顔”が去来してレーガンを悩ませ、夢に魘(うな)された彼はあまりの寝汗でベッドが湯船のようになって溺れかけてしまいます!(“お約束”のアヒル隊長も登場♪ 
彼を悪夢へと引きずり込んでいたのはイタリアの独裁者ムッソリーニやイランの最高指導者ホメイニ師、ソ連最後の最高指導者ミハイル・ゴルバチョフ、リビアの独裁者カダフィ大佐…という錚々たる顔ぶれ。

当時現実でレーガンを最も悩ませたであろう要因はやはりソビエト連邦との“東西冷戦”であり、長年に亘る軍拡競争によって1980年代初頭までにソ連の軍事力はアメリカのそれを(量的に)凌駕するほどになっていました。
1983年3月の演説でレーガンはソ連を、自由を抑圧し対外膨張を図る“悪の帝国(evil empire)”と名指しで非難するまでに米ソ両国の緊張関係は高まっていたのです…。
(モスクワ、ロサンゼルスというそれぞれが開催するオリンピックのボイコット合戦を繰り広げたのも、この頃でした)


Ooh Superman where are you now
あぁスーパーマン、どこにいる?
When everything's gone wrong somehow
何もかもが悪い方へと向かう、こんな時に

PVの中で、世界の危機を救うべく(?)立ち上がったレーガンはスーパーマンに変身し、時に勇敢なカウボーイとなって奔走(迷走?)します。
やがて悪夢から目が覚めた彼は、ベッドサイドにある【NUKE(核兵器)】ボタンに手を伸ばし…!? 

核開発競争によってソ連は広島型原爆の約3300倍の破壊力をもつ超大型水素爆弾や、核攻撃を受けると自動で核ミサイルを発射する報復システムを開発するなど、たとえそれが一発の誤射であっても全世界を破滅させる全面核戦争を引き起こしかねない時代に突入しました。
このためレーガンはアメリカの国防予算を大幅に増額してミサイルやレーザーを搭載した衛星で敵ミサイルを迎撃する“スターウォーズ計画”を推進させ、両国の軍拡競争は宇宙空間にまでエスカレートしてゆきます。
しかし結果として、財政基盤の弱いソ連は破綻を起こし1991年12月の共産党解散を以って事実上崩壊、東西冷戦時代は一応の鎮静へと向かうことになります…。



~Epilogue~

間もなく、世界のリーダーであるアメリカ合衆国第45代大統領が誕生します…

その共和党ドナルド・ジョン・トランプ(Donald John Trump)氏が尊敬する政治家こそ、第40代アメリカ大統領ロナルド・レーガン氏です(※敬称は2度目以降略します)。
トランプは大統領選で“Make America Great Again(アメリカを再び偉大な国に)”を掲げ当選しましたが、この言葉は1980年の大統領選に於いて共和党候補のレーガンが使用していたものです。
レーガンが当選した背景には、前・民主党カーター政権が不況とイランのアメリカ大使館人質事件で有効な打開策を取れなかったことに国民が募らせた不満がありました。


“強いアメリカ”復活のために…

ノーベル平和賞を受賞した現アメリカ大統領バラク・オバマ氏の平和希求の理想と現実は、皮肉にも原爆を投下した国の元首として史上初めて被爆地・広島に“核フットボール(核兵器の発射ボタン)”を帯同させ訪問したことに象徴しており、同時にこれは“Yes We Can”に抱いたアメリカ国民の希望と失望にも重なります。

今回のトランプ当選の背景にも、自由貿易協定 (FTA)下での国内製造業の国外流出及び移民流入による雇用喪失や、オバマのロシア・中国・ISILに対する弱腰な印象の外交への不満を募らせた国民にトランプの“Make America Great Again”が心地よかったことは想像に難くありません。
しかし、トランプ一方的に宣言しながら費用を相手に支払わせるというメキシコ国境の壁に“理想と現実”はないのでしょうか…。


“逆らう者を力でねじ伏せる”ことこそ、強者の証…?

一方、トランプが就任前からその力を見せつけているのがツイッターによる投稿で、彼の一方的な“つぶやき”だけで世界の大企業トヨタから“今後5年間で100億ドル(約1兆1600億円)の投資”を引き出しました。
(※これについて経団連の榊原定征会長は“もともとあった計画と推測”と報じられていますが…?)

また先日、初の記者会見では、禍根をもつCNNに所属するテレビ記者の質問を“お前の組織は最低だ”“黙れ”“FAKE(偽)ニュースだ”と罵り全く受け付けなかった映像は日本でも何度も伝えられました。


好きな女優? 過大評価された女優?

2017年のゴールデングローブ賞で女優メリル・ストリープが名指しこそ避けたものの、障害ある記者を真似て茶化すような言動を取ったトランプについて“衝動的に人を侮辱するパフォーマンスを、公の舞台に立つ人間、権力のある人間が演じれば、あらゆる人たちの生活に影響が及び、他の人たちも同じことをしてもいいという、ある種の許可証を与えることになる”と自戒を促しました。
これに対し、トランプはすぐさまメリルを“最も過大評価されている女優の一人”と応じましたが…

彼は2015年8月の雑誌のインタビューでお気に入りの女優を問われた際ジュリア・ロバーツとメリルの名を挙げており、さらに“メリル・ストリープは素晴らしい女優だ。人としても立派だよ”と評していたそうです。


そして、核のボタンは“その男”に委ねられる…

かつて冷戦時代、アメリカは最大で約31,000発、ソ連は約45,000発の核弾頭を保有していたとされ、世界を破滅に導く全面核戦争の危機が囁かれていました。
そして、軍拡競争に敗れたソ連は確かに崩壊しました。
しかしその殆んどはロシアに引き継がれ、削減が重ねられた2016年3月時点でもアメリカ約6,970発、ロシア約7,300発の核弾頭を保有しており、しかもそのうち約1,800発が今も即時発射可能な状態に配備されているといわれます。

一方による核ミサイルの発射の知らせから、他方首脳が反撃の判断に許される時間は約10分…

オバマはこうした核兵器の常時臨戦態勢を解き、その役割を敵の核攻撃抑止のためだけに限定(敵が核兵器を使用、または使いそうな局面に限ってアメリカも使用)する“唯一の目的政策”の達成を目指していましたが、国防総省や安倍政権などの反対によりそれは果たせぬ夢に終わりました。

そして今週末、この即時発射可能な核ミサイルのスイッチが、選挙戦中“ISILによる対米攻撃には核で反撃する”と発言するトランプの手に引き継がれる…。


This is the world we live in
…これが、僕らの住む世界
And these are the hands we're given
でも、与えられしその手により
Use them and let's start trying
挑んでみよう
To make it a place worth living in.
世界を、住みよいものとするために



「ランド・オブ・コンフュージョン~混迷の地~」


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tags : 1986年 ロック/ポップ 名作MV 反戦 プロテスト 

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「リヴィング・イヤーズ」マイク&ザ・メカニックス

2014.06.06

category : Genesis+

Mike + The Mechanics - The Living Years1 Mike + The Mechanics - The Living Years2


Mike + The Mechanics - The Living Years (1988年)


~もうすぐ“父の日”~

6月第3日曜日(今年は15日)は、“父の日”。
母の日に比べ何となく地味な印象を拭えませんが、先月マイナビが女性会員を対象に行った(何で女性だけかは分かりません)アンケートによると“78.2%が父を尊敬・感謝している”と答えたそうです。

私のイメージからすると“意外な高評価”な気もしますが、みなさんはお父さんにその気持ちを伝えておられるでしょうか?
今日は、そんな想いを伝えることが出来なかった男の、哀しみの歌です…。



~Mike + The Mechanics~

マイク&ザ・メカニックスはイギリスのロック・バンド“ジェネシス”のギタリスト/ベーシストであるマイク・ラザフォードが1985年に結成したバンドです。
ジェネシスといえば1960年代から続くロックの名門として成功を収めたバンドと広く認められていますが、当初のピーター・ガブリエルやその後のフィル・コリンズら稀代の牽引役の影響力が大き過ぎて、マイクにとって必ずしも自分の創作を存分に発揮できる場ではありませんでした。
1980年代初頭にソロ・アルバムの発表を経て“サポートしてくれる仲間が必要”と実感し、結成に至ったのがマイク&ザ・メカニックスでした。

ところで、このヴォーカリストに見覚えはあるでしょう?
・・・えっ? フィル・コリンズ!?(確かに似てますが
違いますよ! 彼の名はポール・キャラック
4月にこのブログで紹介した「ウォーク・イン・ザ・ルーム」で、素敵な歌声を聴かせてくれた人です!
私は、彼のヴォーカルが好きだなぁ…♪



~概要~

「リヴィング・イヤーズ」は1988年の2ndアルバム『Living Years』からの2ndシングルとしてリリースされ、Billboard Hot 100でNo.1(89年・年間31位)に輝いた他、オーストラリア・カナダ・アイルランドで1位を記録しました。
日本では高嶋政伸主演のドラマ『HOTEL』第2シリーズ主題歌として、1992年に島田歌穂(『がんばれ!!ロボコン』のロビンちゃん)が「FRIENDS」というタイトルでカバーしているので、そちらをご記憶の方もあるかもしれません。

この作品は作者のマイク・ラザフォードとB. A. ロバートソンの実体験が組み込まれており、出版者やレコード会社の影響力を排除し公平公正に楽曲や作曲家を審査をすることで知られるイギリスで非常に権威の高い『アイヴァー・ノヴェロ賞(Ivor Novello Awards)』で、“Best Song Musically & Lyrically”(1989年)を授賞しました。
また、1996年には「雨にぬれても」や「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」など多数の名曲を輩出した著名な作曲家バート・バカラックによって、“この10年で最も優れた詞の一つ”と評されました。

私が特に印象に残っているのが1990年のグラミーで、「リヴィング・イヤーズ」は最優秀楽曲賞にノミネートされマイク&ザ・メカニックスは式場でパフォーマンスを披露しています。
(ちなみに、この時の授賞曲はベット・ミドラーの「愛は翼にのって」)

ここでは歌詞の世界観を象徴するように、子どもと大人という異なる世代がバック・コーラスとして融合されていて、当時私はこの演出に甚く感動を覚えたものでした。
実はこの演出はMVを再現したもので、MVでは演奏シーン以外でもマイクがストーリーを演じていますが、一緒に登場する男の子は彼の実の息子さんです。

32nd Annual Grammy Awards



~Lyrics~

Every generation
どの世代も
Blames the one before
前の世代を非難するもの

年配者の決まり文句といえば“今の若い者は…”ですが、現代は年配者の方が分の悪い時代といえるのではないでしょうか?
昔話に語られるようなのんびりした時代だったら“亀の甲より年の功”が通用したかもしれませんが、社会のしくみやテクノロジーが日進月歩の今日では、年配者は余程努力を重ねていない限り若者の目には“時代遅れ”と映ってしまうかもしれません。
むしろ、“返すアテもなく膨れ上がった大借金”・“10万年先まで危険を及ぼす放射性廃棄物”・“地球温暖化などの環境破壊”など、将来世代へ重い責任を押し付ける行いは、非難されて然るべき事柄のような気もします…。


We all talk a different language
互いに“異なる言語”で話し
Talking in defense
弁解ばかりしてるんだ

攻撃を仕掛ければ相手は防御するし、当然隙を衝いて反撃も返ってくる…
互いを尊重しない同士の会話は、まるで言語が異なるようにもどかしいものです。

親の苦労を知る我が子だから、解ってくれるはず…
子を愛するはずの親だから、解ってほしい…
いいえ、親子だからこそ争わねばならないのかも知れません。


I'm sure I heard his echo
確かに父の声を聞いたのだ
In my baby's new born tears
生命を授かった我が子の産声の中に

実は、作者のマイク・ラザフォードは「リヴィング・イヤーズ」を発表する前年の1986年にお父さんを亡くしています。
この時彼はジェネシスのツアー中で父の死に目には会えず、その後悔がストーリーの根幹として綴られているわけです。
また、それから間もなく彼は第3子・次男を授かっていて(1986年生まれ)、本当にこういう感覚を得たのかもしれません…。



~Epilogue~

マイクのお父さんは元海軍士官で、軍人らしく非常に厳格な人だったようです。
彼は幼い頃から、“海軍士官の息子に相応しく振る舞い、強くあれ”としつけられました。
学校も父の意向で進学させられ、そこで後のジェネシスのメンバーに出会いますがギターを禁じられ反抗し中退、マイクは父のルールに従って生きることを止めました。

その後ジェネシスは成功を収め、お父さんはコンサートに訪れたりマイクが両親に毎年の船旅をプレゼントするなど関係は改善していたものの、二人が打ち解けて言葉を交わすことはなかったようです。
しかし、父は親に背いて音楽の道を志したマイクを金銭的に支援したり、マイクも父が亡くなった際“一番の後悔は、僕の人生に於いて父がどんなに大切な存在であったか伝えられなかったこと”と語るように、互いに親子としての情愛がなかったわけではありません。
なのに何故、二人は親しく交わることができなかったのでしょう…?
それについてマイク自身は、“二人は共有する言語を持たなかった”と振り返っています。

Say it loud, say it clear
自分の想いは、大きな声ではっきり伝え
You can listen as well as you hear
相手の言葉は、でき得る限りに耳を傾けよう

父と息子…
私もその端くれとして実感していますが、血の繋がった男同士というのは意外に難しいものです。
女性は年を取っても時代の変化や新しいものを柔軟に受容し順応できる気がしますが、男性は保守的で時代が変わっても自分の固定観念から抜け切れない所があります。
そのため、彼らが今の時代を生きる息子をあるがままに認めることは難しいのかもしれません。

この歌は、息子であるマイクが“父に伝えておけばよかった…”と後悔の念を込めた作品ですが、後に彼は思わぬ形で父からのメッセージを受け取ることとなります。
それは遺品を整理した際に発見した彼の“回顧録”で、そこにはマイクが「リヴィング・イヤーズ」で宛てた父への想いと同じ気持ちが綴られていて、そのことに深く感銘を覚えた彼は“最高の遺産”と喜んだそうです。
こうして数十年に亘って繰り広げられた父と息子の葛藤は、二人が“同じ言語を共有する”ことでようやく心の底から分かち合える“真の親子”へと辿り着きました…。



「リヴィング・イヤーズ」


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