そして、私と「Boat On The River」との出あいを取り持ってくれたのもまさにラジオでした。 インターネット検索は既知のものを詳しく調べるには非常に便利なツールですが、ラジオは全く未知なるものと“想定外の出あい”をもたらしてくれるのが魅力です。 あなたにも、そんな素敵な出あいがあることを願って…。
「Boat On The River」の作詞・作曲/ヴォーカルは、トミー・ショウ。 デニスのみならず、バンド内にトミーのようなもう一人の優れたソングライターが存在することこそ、スティクスが一時代を築くビッグ・バンドに成り得た大きな要因です。 但し、やがて最新のシンセサイザーを駆使したサウンド「Mr. Roboto」へと向かいゆくバンドの潮流に反し、ここではトミーがマンドリン、デニスがアコーディオン、チャック・パノッツォがコントラバス、ジェイムス・ヤングがアコースティック・ギター、ジョン・パノッツォがバスドラ&タンバリンという“アンプラグド”な編成で、どちらかというと仰々しい部類に入る彼らにしては一風変わったサウンドといえます。
~Lyrics~
Take me back to my boat on the river 川に漂う、あの小舟へと連れ戻しておくれ I need to go down, I need to come down 行かなくちゃ…行かなきゃならないんだ
And all roads lead to Tranquillity Base その流れは、この顔から苦しみを消し去り Where the frown on my face disappears “静かの基地”へと導く
【Tranquillity Base(静かの基地)】は、1969年7月20日にアポロ11号の月着陸船が人類初の月面着陸した地点のことで、この地は月の海の一つ“静かの海”にあり、日本でいう“餅をつく兎”の顔の部分に当たります。 人類の月面着陸は、1961年に就任したジョン・F・ケネディ大統領(1963年に死去)が5月25日に議会で表明した施政方針で“1960年代の終わりまでに人類を月面に到達させ、かつ安全に地球に帰還させる”と掲げた悲願を実現させた瞬間でもありました。 主人公にとって、【boat on the river】とは…?
もしもここに登場する【she=the river/waters】と仮定するなら、主人公がその川を女性扱いするほど強い愛着を持っていることが窺え、作者のトミーが内陸水路の発展したアラバマ州出身であることからも、「故郷へ帰りたい」のような郷愁をイメージさせます。 また、【she=女性】とするなら、主人公にとって彼女は心を癒やす特別な存在であることになり、彼がどうしてこんなに切実に“戻りたがる”のかも腑に落ちます。 さらに、【she=the river/waters=女性】とするなら、“my boat on the river(彼女という川に浮かんだ僕という小舟)”という解釈も可能であり、彼にとって彼女がどんな存在かより鮮明になってきます。