「One More Try」は1987年10月30日発売、ジョージ・マイケルの1stソロ・アルバム『フェイス(Faith)』の収録曲です。 ご存知のようにジョージは1980年代中頃までに世界的アイドルに上り詰めたイギリスのポップ・デュオ“ワム!(Wham!)”の中心人物でした。 ところがその人気絶頂を極める中、彼は自らワム!を脱ぎ捨て“本当の自分”を求めて歩き始めたのです…。
ワム!の一連の作品の殆んどはもちろんジョージの自作によるもので、その弾けるポップ性と若さ溢れるエネルギーがキラキラしたオーラとなって多くの人々を魅了してきました。 しかしワム!の解散から僅か1年でリリースされたジョージの1stソロ・アルバム『Faith』は、その輝かしいイメージを全く覆すテイストのものでした。 そこにはかつてのキラキラ感はなく、“まるで黒人”といっていい粘っこくてコクのあるブラック・ミュージックで占められていたのです。 最小限のリズムとキーボードのみでシンプルに編曲されたバラード「One More Try」もその例外ではなく、そこに漂うゴスペルのインスピレーションが主人公の心情を極限まで表現しているように思えます。
「One More Try」は1988年4月にシングル・カットされると、5thシングルという不利な条件をモノともせずBillboard Hot 100で3週No.1(年間11位)を記録しました。 また、同時に本曲はAdult ContemporaryとHot R&B/Hip-Hop SongsチャートでもNo.1を達成しており、特に白人男性歌手によるR&Bチャート1位は、以後2007年のロビン・シック(Lost Without U)まで20年近く成し遂げる者が現れませんでした。 日本ではソニー・ウォークマンのCMにPVがそのまま使われていたので、曲・映像共にご記憶の方も多いでしょう。
作者であるジョージ・マイケルは自身の「One More Try」について、次のように評しています。 “僕の高傑作であり、5年後・10年後の僕はバラードによって記憶されているだろう…”
更に彼は、ワム!時代に発表した「ケアレス・ウィスパー」と比較して、以下のような言及を加えています。 “多くの人は「Careless Whisper」が好きだと言うけれど、僕個人にとっては感情的な意味は何も持たないんだ。多分、人生の中の何か別の時期に生まれた曲だからだと思う。一方「One More Try」は僕の心に極めて近い位置にあるバラードなんだ。みんな「Careless Whisper」と「One More Try」を比べるけれど、僕には比較の対象にすらならないんだ”
「One More Try」の歌詞のほとんどは、感傷的な言葉で埋め尽くされています。 しかし最後の一行でようやく、弱々しいながら【one more try】という前向きな言葉が登場し、これがそのまま作品のタイトルになっていることから、それが“この時点での彼の結論”だったといえるのでしょう。
I'm so cold Inside 心の奥まで寒くてたまらない Maybe just one more try それでも、もう一度挑んでみるか…
「One More Try」を構成する音楽的要素[ゴスペル]は、近代アフリカから奴隷としてアメリカ大陸に強制連行され、独自の言語・宗教を剥奪された黒人らにとっての苦しみ・悲しみの淵で救いとなった福音(神のことば=God spell)を表現する手段として生まれた音楽です。 ゴスペルを歌うことが彼らの励みであり、それに接した人々をも勇気づける…
「フリーダム」は、ジョージ・マイケルがデビューのきっかけとなったポップ・デュオ“Wham!”時代の1984年にリリースした作品です。 ジョージはソロになった1990年にも同名のタイトル「Freedom! '90」を発表していますが、これは全く別の作品。 ワム!は1984年に「Wake Me Up Before You Go-Go」で一躍世界のアイドルに上り詰め、「フリーダム」はその2ndアルバム『メイク・イット・ビッグ(Make It Big)』からの3rdシングルで全英3週No.1、Billboard Hot 100は3位(1985年・年間76位)を記録しました。
それ以来となる新作はナンと10年ぶりのアルバムで、オリジナルとしてはソロ6作目となる『Symphonica(シンフォニカ)』が今月発売される予定です。 このアルバムでは2013年3月に79歳で亡くなったグラミー賞14回受賞の名プロデューサー、フィル・ラモーン(ビリー・ジョエル「素顔のままで」など)との共同プロデュース作品で、彼にとってはこれが遺作となってしまいました。 先行シングルとなっている「Let Her Down Easy」は「Wishing Well」などのヒットで知られるテレンス・トレント・ダービー(現サナンダ・マイトレイヤ)のカバー曲となっていて、なかなかアート性の高いバラードですよ♪
「Let Her Down Easy」
~概要~
「ファストラヴ」は1996年の3rdアルバム『オールダー(Older)』に収録され、2ndシングルとしてBillboard Hot 100で8位(年間62位)を記録しました。 イギリス・オーストラリア・イタリアでNo.1に輝いており、全英シングル・チャートとしては現時点で最後のNo.1となっています。 1990年代前半、ジョージは所属レーベルのソニーと泥沼の係争騒ぎを起こしていて、移籍を経てのソロ3作目は2ndアルバムから約6年の歳月が流れていました。 (それにしても、ソニーは“マイケル”という名の人物とは相性が悪い!?)
音楽的には強烈なR&Bダンス・ビートが根底になっていますが、その素となっているのがパトリース・ラッシェン1982年の「Forget Me Nots」(23位/Hot 100)で、特に後半には彼女のヴォーカルもサンプリングされています。 ちなみにこの影響か、「ファストラヴ」がヒットした翌97年には映画『メン・イン・ブラック』で主演のウィル・スミスが歌ったラップの主題歌にもパトリースの「Forget Me Nots」がサンプリングとして使われました。