~ Lyrics ~Writer(s): Lennon–McCartney /訳:Beat Wolf
ダコタの黒い鉱山の丘の何処かに
ロッキー・ラックーンという少年が住んでいた
ある日、彼の女が他の男と駆け落ちして
ひどく打ちのめされ
受け入れられないロッキーは
“きっと奴に仕返ししてやる”と言い
ある日、町に下り
当地の酒場の部屋を予約した
[Chorus]
ロッキー・ラックーンがチェックインし部屋に入ると
ギデオンの聖書が目に入った
しかしロッキーは銃の装備に取り掛かった
恋敵の脚を撃つために
恋敵はロッキーの恋人を盗み
彼の夢を引き裂いた
彼女の名はマギル、自らはリルを名乗ったが
人にはナンシーとして知られた
恋敵の男は彼女との間でダンと呼ばれ
いま二人は隣室でホーダウン(ダンス)の真っ最中
そこにロッキーが突然入り込み、ニヤリと笑いこう言った
“ダニー・ボーイ、勝負だ!”
しかしダニエルも心得たもので、機先を制し発砲
隅に崩れ落ちたのはロッキーだった
[Instrumental bridge]
やがてジンの臭いを漂わせた医者が入って来て
テーブルの上に寝かせ、こう言った
“ロッキー、相手が悪かったな”
ロッキーも応える “ただのかすり傷さ、先生
きっとよくなって、治ったらすぐ…”
[Chorus]
ロッキー・ラックーンが部屋に戻ると
ギデオンの聖書が目に入った
恐らくギデオンがチェックアウトの際、残していったもの
ロッキーのよき再生の助けとするために
[Outro]
C'mon, Rocky boy...
~ 概要 ~「ロッキー・ラックーン」は、1968年11月22日にイギリスで発売されたビートルズの9作目のオリジナル・アルバム
『ザ・ビートルズ(The Beatles)』の収録曲です。
作者は主にポール・マッカートニーで、1968年2~3月に瞑想修行のため滞在したインドで書かれたものが基になっていますが、
歌詞はジョン・レノンとシンガーソングライターのドノヴァンが手伝っており、その過程についてポールは“ジョンやドノヴァンと座って楽しくやっているとき僕が「ロッキー・ラックーン」のコードを弾き始めると3人が歌詞を付け、あっという間に出来上がった”と語っています。
帰国後の同年5月末、英サリー州イーシャーにあるジョージ・ハリスンの自宅にメンバーが集まって27曲のアコースティック・デモ録音を行っており、本曲もその一つでした(『50周年記念ボックス・セット』に収録)。
その音源
「Rocky Raccoon (Esher Demo)」
によると、この時点で[Verse 1][Verse 3]は歌われておらず、[Chorus]-[Verse 2]-[Chorus]の構成で最終版【3:34】より約1分短い【2:44】の作品となっています。
正式レコーディングは同年8月15日にオーバーダブを含め約8時間で9テイク録音され、ベストと判断された第9テイクをリミックスして第10テイクとし、これにピアノ、アコーディオン、ハーモニカ、バック・ヴォーカルを加えて完成させました。
1996年に発売された
『ザ・ビートルズ・アンソロジー3』にはその直前の
「第8テイク」
が収録されていますが、構成は[Spoken]-[Chorus]-[Verse 2]-[Verse 3]-[Chorus]-[Spoken]-[Half Spoken-Half Sung]と、イーシャー・デモから複雑化/2分以上長く【4:57】、
第9テイクまでの僅かな間に詞の内容が大幅に変更されたことがわかるでしょう。
演奏体制も変則的で、ポールがアコースティック・ギターを弾いているためジョンがベースを担当し、ジョージはバック・ヴォーカルにしか参加していません(ジョージもベースを演奏したとする説もある)。
一方“ビートルズ時代最後”とされる
ジョンのハーモニカ演奏や、テープの回転速度を半分に落として録音した
ジョージ・マーティンのタック・ピアノなど、サウンドも魅力的です。
残念ながらビートルズ及びポールのライブ演奏はありませんが、“不思議な縁”というか、前回特集した
クラウデッド・ハウス
の演奏を見つけました。
世に知られた名曲だけで数多いビートルズにあって地味な印象は否めないものの、むしろ本曲が後世に与えた大きな影響は“キャラクター”でしょう。
マーベル・コミック作品に登場するスーパーヒーロー
【Rocket Raccoon】
は本曲をモチーフとする[raccoon(アライグマ)]のキャラクターであり、1976年の初登場以来、21世紀も活躍中です。
~ Story ~Now somewhere in the black mining hills of Dakotaダコタの黒い鉱山の丘の何処かに物語の舞台はあくまで【somewhere】ですが、アメリカ中西部サウスダコタ州とワイオミング州の州境に存在する山地
【ブラックヒルズ (Black Hills) 】(写真;左)とする説があります。
この辺りで有名と言えばラシュモア山(国立記念公園)の花崗岩に刻まれた『4人の大統領の彫像』(写真;右)で、一度は何かで目にしたことがあるでしょう。
ブラックヒルズの最高峰ハーニー山は古くからインディアンが散在し、18世紀にスー族が当地を
『パハ・サパ(黒い丘)』と名づけ、精霊の宿る聖地として崇めていました。
ところが1874年に金鉱床が発見されるとゴールド・ラッシュが起こり白人の探鉱者が押し寄せ、スー族との間で激しい戦いが繰り広げられた歴史は、ケビン・コスナー監督/主演の西部劇映画『ダンス・ウィズ・ウルブズ』にも投影されました。
There lived a young boy named Rocky Raccoonロッキー・ラックーンという少年が住んでいた彼が住んでいた地をブラックヒルズとするなら、彼が決闘を繰り広げた町は、ブラックヒルズの中心部・セントラルシティの北東側、スタージスの西約10マイルのところに位置するサウスダコタ州
【デッドウッド】
と想定され、町の佇まいはこの物語の舞台にぴったりです。

また、本曲のタイトル及び
主人公の名前は当初「Rocky Sassoon」だったそうです。
【Sassoon】は“苗字”として使われる言葉で、私が真っ先に浮かぶのはロンドン出身の有名な美容師ヴィダル・サスーン(Vidal Sassoon)ですが、山深い田舎で時代遅れの決闘を仕掛ける男のイメージとはかなりギャップがあります。
ポールは、苗字を【Raccoon(アライグマ)】に変更した理由を“その方がカウボーイっぽいと思ったから”と言っているそうですが、ロンドン在住の彼なら尚更それが頭にあったでしょう。
ちなみに
【Rocky】は、【Rocky Mountains】やアメリカの人気アニメ【Rocky & Bullwinkle】など諸説あるようです。
He said, "Danny boy, this is a showdown"“ダニー・ボーイ、勝負だ!”ここに反応するようだと、あなたは立派な“Beatlemania”! …かもしれません。

あくまで仮説ですが、【Danny boy】のフレーズから多くの人が連想するのは
アイルランドのトラディショナル・ソングであり、世界的にも有名な楽曲です。
アルバム『レット・イット・ビー』の
「One After 909」の最後で、ジョンが即興的に歌ったのも「Danny Boy」でした。
Danny Boy · Hayley WestenraGideon checked out, and he left it no doubt恐らくギデオンがチェックアウトの際、残していったものTo help with good Rocky's revivalロッキーのよき再生の助けとするために本作では、
【Gideon's bible】が重要な役割りを果たしています。
日本でもホテルに宿泊の際、部屋に聖書が置いてあったりしますが、それが『ギデオンの聖書』です。
これは国際ギデオン協会がキリスト教を広める目的で置いているもので、これまでに世界で約15億冊、日本だけでも3400万冊寄贈されたといいます。
結末は描かれていませんが、果たしてロッキーは怪我と神の教えを教訓に“よき再生”を歩んだのか、それとも…?
~ Epilogue ~ポール・マッカートニーが書いた154曲の歌詞を通じ自らの人生を振り返る、初の自叙伝とも言える
『The Lyrics : 1956 to the Present』
が11月2日に発売されます。
それに先立って行われた対談の中で、彼は「Rocky Raccoon」にまつわる逸話を披露

しました。
Now the doctor came in stinking of ginやがてジンの臭いを漂わせた医者が入って来てAnd proceeded to lie on the tableテーブルの上に寝かせ、こう言ったポールによると、
このキャラクターのアイデアは彼自身の実体験から得たものでした。
それはあるクリスマス時期の夜、従姉妹のベティを後ろに乗せて
原付バイクを運転中、月明かりの夜だったため後ろを振り返り“あの月を見てごらんよ”…なんてやってるうちに
転倒し地面に叩きつけられ、ポールは唇を切って血だらけになってしまったそうです。
家に駆け付けた医者は“何針か縫う必要がある”と言うものの彼は
ジンの悪臭を放つほど酔っぱらっており、針と糸はあるものの麻酔を忘れてくる有様で、しかも自分で針に糸を通すこともできずベティが代わって糸を通したといいます。
しかし案の定というか…
スティーヴ・ターナー著『A Hard Day's Write』のアップルレコードのマーゴ・バード氏の言及によると、
ポールはしばらくの間、唇に厄介なしこりができてしまったそうです。
もしポールが
もっと賢明(脇見運転しない)か、幸運だったなら転倒事故は起こらなかっただろうし、
もっと不運なら事故で命を落とすか、不適切な手術が原因で一生の障害や亡くなっていたかもしれません。
きっと
人生って、私たちが自覚する以上にそういう“紙一重”のところで展開しているのです。
ならば、現在まで何十年と五体満足て生きてこられたことは十分幸運であり、ロッキーが無謀をやって生きていられたのも極めて幸運だったといえます。
問題は、その
幸運をその後の糧に生かせるかどうか…
人生は、それによって幸不幸を大きく変え得るもののように思えてなりません。
Deconstructing Rocky Raccoon (Isolated Tracks)
最後までお読みいただき、ありがとうございました ♪
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