Writer(s): Lennon–McCartney /訳:Beat Wolf [Verse 1: Paul & John] 僕ら二人、宛てもなく“riding” 誰かが苦労して稼いだお金を使い果たした 君と僕、“Sunday driving” 辿り着けず、彷徨う 家への帰り道
[Chorus: Paul & John] 家へと向かう途上 我が家への帰り道 僕らは、我が家を目指し進んでいる
[Verse 2: Paul & John] 僕ら二人、何枚も葉書きを宛て 手紙を書いて壁に飾った 君と僕、マッチを燃やし酒を奢(おご)り合った 家への帰り道
[Chorus]
[Bridge: Paul] 君と僕の思い出は この先に延びる道より長い
[Verse 3: Paul & John] 僕ら二人、レインコートを身に着け 太陽の下、独りぽつんと立った 君と僕、宛てもなく紙切れを追いかけた 家への帰り道
[Chorus] [Bridge] [Verse 3] [Chorus]
[Outro] 僕らは、我が家を目指し進んでいる それを信じよう Goodbye
~ 概要 ~
「トゥ・オブ・アス」は、ビートルズが事実上解散した後の1970年5月8日に発売された12作目のオリジナル・アルバム『レット・イット・ビー(Let It Be)』の収録曲です。 後期には珍しくポール・マッカートニーとジョン・レノンがほぼ全編にわたりコーラスを展開、作者もレノン=マッカートニーですが、実際はポールが単独で創作しています。
本曲は元々、ビートルズが設立したアップル・レコードの所属でポールがプロデュースしていた【Mortimer】というフォーク・トリオのデビュー・シングルとする予定で、この時点でのタイトルは「On Our Way Home」でしたが、結局この録音はリリースされませんでした。 ビートルズに於いては1969年1月2日から始動した『ゲット・バック・セッション』で演奏され、その過程でタイトルが「On Our Way Home」→「Two Of Us On Our Way Home」→「Two Of Us」と短期間で何度も変更されています。 一般に知られる「Two Of Us」はアコースティック・ギター中心のややスローなフォーク・ロック・ナンバーですが、トゥイッケナム・スタジオで演じられた当初のスタイルはエレクトリック・ギターを使用した軽快なロック・ナンバーで、一連の過程をドキュメンタリーとして記録した映画『レット・イット・ビー』のリハーサル映像でジョンとポールは1本のマイクに向かい合って歌い、ポールはエルヴィス・プレスリーをマネし、ジョンも体をくねらせ大げさなアクションでギターを演奏するなど、昔の二人に戻ったような印象です。
同年1月24日からはアップル・スタジオで正式なレコーディングが始まり、同日録音された本曲の音源(ザ・ビートルズ・アンソロジー3に収録)ではアコースティック・スタイルで演奏されています。 その中でポールが歌詞にはない“Take it, Phil”という言葉を唐突に発していますが、本セッションのテーマは“Get back(原点に返ろう)”であり、【Phil】とはポールとジョンのヴォーカル・ハーモニーに多大な影響を与えたエヴァリー・ブラザースのフィル(Phillip)・エヴァリーを指していると考えられています。 「Two Of Us」は1月31日までに12テイク録音されましたが(アルバム『レット・イット・ビー』にはその第12テイクを使用)、この前日は“ビートルズ最後のライヴ・パフォーマンス”として有名な『ルーフトップ・コンサート』が行われた日であり、映画『レット・イット・ビー』に収録されたその翌日4人が一緒に演奏した「Two Of Us」は“映像に残る最後のビートルズの演奏”です。
ゲット・バック・セッションで録音された音源は、ローリング・ストーンズやレッド・ツェッペリンなどでエンジニアを務めたグリン・ジョンズに託され、1969年5月28日にアルバム『Get Back』のマスター・テープが完成しました。 しかしその後ビートルズ側の方針の二転三転により再録・再編集を余儀なくされて収拾不能となり、1970年3月にフィル・スペクターがプロデューサーに就任、『Get Back(原点に返ろう)』のはずが『Let It Be(あるがままに)』として発表されることとなりました。 これを不服としたポールが自らのソロ・アルバムで『Let It Be』の発売を阻害しようとし、2003年にフィル・スペクターの“加工”を排した『Let It Be... Naked』を発表したことはファンもご存じでしょう。
~ Story ~
I Dig a Pygmy by Charles Hawtrey and the Deaf Aids チャールズ・ホートリーとデフ・エイズの「I Dig a Pygmy」 Phase one, in which Doris gets her oats ドリスがエッチするフェーズ1
記事冒頭の『ネイキッド』ver.にはありませんが、アルバム『レット・イット・ビー』ver.演奏前にジョンが発する言葉です。 これはジョンらしいナンセンスなジョークで、元々は「Two Of Us」での発言ではなく、1969年1月24日に同アルバム収録の「Dig A Pony」のリハーサル時に発したものと言われます。 (「Two Of Us」の前に置いたのはフィル・スペクターの編集による) 私はこのジョンの発言を『サージェント・ペパーズ』方式の実在しない変な名前のバンドの曲紹介(のジョーク)と解していますが、チャールズ・ホートリーは実在したイギリスのコメディアン俳優で、現在も本人の写真とこのフレーズの入ったTシャツがネットで販売されています。
Two of us riding nowhere, 僕ら二人、宛てもなく“riding” You and me Sunday driving, 君と僕、“Sunday driving”
ポールは本歌詞について、創作時の恋人で1969年3月12日に妻となるリンダ・イーストマンとイギリスの田舎町を“目的地を決めずドライブ”したことを参考にしたと、インタビューで語っています。 一方、歌詞に登場する言葉の随所にファンは“ビートルズの歩んだ道”を抱かずにはいられないでしょう… 1965年の「Day Tripper」には【Sunday driver, yeah】の歌詞があり、【riding】といえば「Ticket to Ride」を連想させます。
Two of us wearing raincoats 僕ら二人、レインコートを身に着け spending someone's Hard earned pay 誰かが苦労して稼いだお金を使い果たした
【レインコート】といえば『Help!』のジャケットであり、下段は素人経営の『アップル』や悪徳マネージャーによって巨額の負債とビートルズの版権を失った問題を思い起こさせます。 他にも50-60年代のリヴァプールのバーでは、他人の最初の一杯をおごる礼儀作法を【lifting the latch】と言ったそうです。 つまり【Two of us】とは50-60年代のリヴァプールで共に過ごした二人であり、この時点で多くの思い出を共有するポールとジョンと考えるのが自然でしょう。
We're going home 僕らは、我が家を目指し進んでいる
この頃のポールといえば「The Long And Winding Road」や「Golden Slumbers」ほか、【go home】な曲ばかり創作しており、つまりは『Get Back』です。 ポールとジョンは少年時代の1957年に出会い、以降バンドメイトとして家族以上の時間を共に過ごしてきましたが、コンサート活動の休止や、レコーディングもオーバー・ダビングの進歩により4人が共に過ごす時間が激減、それに伴いメンバーの結束も急速に失われてゆきました。 これに危機感を抱いたポールが4人の結束を取り戻す解決策として見出した答えが『go home / get back』であり、4人が共に過ごす必然の生じる【ライブ】と【オーバー・ダブ禁止】だったわけです。
Two Of Us (1969 Glyn Johns Mix) / Two Of Us (2021 Mix)
~ Epilogue ~
通常ならポールとジョンに及ぶカバーなど私にはあり得ませんが、一つだけ例外があります。 それは元 'Til Tuesday のエイミー・マンと、その夫マイケル・ペンによる「Two Of Us」です。 このカバーは2001年公開の映画『アイ・アム・サム(I am Sam)』のテーマ曲で、“私の最も好きな映画の一つ”というひいき目もあるかもしれません(サウンドトラックには他にもビートルズの楽曲のカバーがちりばめられている)。
この映画の素晴らしさの一つは、“慕い合いながらすれ違い彷徨う二人”という「Two Of Us」の本質と、映画の本質が見事に合致している所です。 主人公のサム(ショーン・ペン)は知的年齢が7歳のシングルファーザーで、その娘ルーシー・ダイアモンド(ダコタ・ファニング)が7歳を迎えることで関係に葛藤が生じ、行政に養育能力なしと判断され深く愛し合う親子が引き離されてしまう…というストーリー。
この曲自体は純粋にジョンとの関係だと思います。 ただ「エンジニアやプロデューサーの思惑」ではなく、ポールがエンジニアのグリン・ジョンズを雇い『Get Back』の趣旨に合わせライブ・サウンドを構築させましたが、その後ジョンとジョージがフィル・スペクターを雇いポールに無断で音を加工した『Let It Be』にしてしまったので、ポールが憤慨したのです。
「アイ・アム・サム」ご覧になりましたか。 「障がい者の問題」として見れば他人事ですが、「家族とのすれ違い」とみれば誰にでもあることですね。 映画『Let It Be』は「解散直後」だったし映像が暗かったのでイメージもそんな感じでしたが、今回は『Get Back』で映像も内容も明るくしたようです。 ただディズニーなので「エンタメ化」が気になるところではありますが…。(笑)
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