「しあわせの予感」は、ビートルズがイギリスでの最多売上記録を有していた「She Loves You」の記録を塗り替えたポール・マッカートニー&ウイングス1977年11月の「夢の旅人」に続く待望のシングルで、1978年3月の6thアルバム『ロンドン・タウン(London Town)』に収録された作品です。 アルバム発売直前に1stシングルとしてカットされ「夢の旅人」に続く全英1位とはならなかったものの(5位)、アメリカでは Billboard Hot 100 で2週No.1(年間18位)と、ウイングスとして5曲目の全米No.1に輝きました。
「With A Little Luck」はポールがスコットランドの農場で書いた楽曲で、録音はカリブ海にあるヴァージン諸島の洋上、24トラックの移動式レコーディング・スタジオを設置したフェア・キャロル号というモーター・ヨット内で行われました。 帰英後ジミー・マカロック(g)とジョー・イングリッシュ(dr)がアルバム制作途中に脱退してしおり、ポールと妻のリンダ、デニー・レイン(g)の3人でアルバムを完成させています。 本曲ではギターが使用されておらず、メンバー3人がかりでのキーボード/シンセサイザーをメインとした編成となっており、“金属的な音”が入っていないため“ふわふわ”と微風に吹かれ雲か波の上でお昼寝してるような心地良さを覚えるでしょう。
「With A Little Luck」の特徴の一つに“長い間奏”があり、全編で5分45秒あるためラジオ局には短縮させた3分13秒の【DJ Edit】が配布されましたが、ラジオ局が好んでかけたのは編集されていない5分45秒ある正式 ver.だったといいます。 これは私も同感で、本曲の魅力は長い間奏の後ポールとコーラスが再び入ってくる瞬間が“待ち侘びていた人が帰ってきた”ような感慨を誘うのです。 【DJ Edit】はベスト盤などに使われることが多く、下に貼っておきます。
「With A Little Luck」は全米No.1ソングであり、ウイングスの『Wings Greatest』(1978)やウイングス+ポールの『All The Best!』(1987)、『Wingspan: Hits and History』(2001)などベスト盤の定番曲であるにも拘らず、不思議なことに直後の『Wings UK Tour 1979』やその後のポールのコンサートで恐らく演奏されたことがありません。 このためファンが触れることのできるアウトテイクはとても貴重で、一つは1977年の『London Town』セッションのデモ。 もう一つは『1980年の日本公演のためのリハーサル映像』で、もしも“あの事件”がなかったら「With A Little Luck」が日本で披露されていたのでしょうか…。
~ Story ~
The willow turns his back on inclement weather 柳は荒ぶる風雨をしなやかに受け流す We can make this whole damn thing work out このひどい状況をやり遂げられる
英語にも類似表現が存在し【A reed before the wind lives on, while mighty oaks do fall(嵐の前に葦は生き続け、強い樫の木は倒れる)】や【Better bend than break(折れるより曲がる方がよい)】などがあります。
あなたは『硬くて強い』派、それとも『柔らかくしなやか』派?
With a little push we could set it off 少しの後押しがあればそれを打ち上げられる With a little love we could shake it up 少しの愛があれば、それを一新できる
「With a Little Luck」の当初の邦題は「愛の幸運」だったとか…。 ただ愛にはいろんな愛があり、むしろ興味深いのは常に【it】を関連付けて綴られていることです。 これによって聞き手は愛に限らず、それぞれの人生、またはあらゆる局面で抱えた【inclement weather(荒天)】を想い起こすでしょう。
この発言は、「With A Little Luck」に込められたメッセージと重なるような気がします。 ポールにとって絶対不可欠なパートナーは妻のリンダであり、彼女がミュージシャンとして素人同然である以上、彼と同格レベルの実績を持つプレイヤーがウイングスに加入することは難しいでしょう。 (実際ビートルズもデビュー前に実力不足のピート・ベストを解雇しているし、プロの世界とは本来そういうものである) バンド・メンバーは活動に不可欠な【help】ですが、それはポール自身が世界の期待に応えられるだけの楽曲を創作できてこそ維持してゆけるのであり、その“領域”は滅多な人が助けられるものでもありません。 寧ろその“領域”に彼らの助けをアテにしているようではバンドどころか、“ポール・マッカートニー”自体が存続の危機に陥るでしょう。
With a little luck we can help it out 少しの幸運があればそれを助けられる We can make this whole damn thing work out このひどい状況をやり遂げられる
つまりポールが「With A Little Luck」に込めたメッセージの一つは、“運頼みにしてはいけない”なのだと考えます。 世界チャンピオンに素人が運任せで勝つことはまず不可能であり、自分の人生なのに他人の助力ばかりアテにしていたら成長しないし楽しくないでしょう。
久しく更新されていなかったので健康面で何かあったのかとちっと心配していましたが、また元気にブログが公開されて何よりです。ポールマッカートニー続きですね!、「しあわせの予感」(With A Little Luck)」(1978)の頃は、メンバーの脱退で3人編成となり、結束力にやや翳りが出てきていた時代でsyが、小生はウイングスの中ではこの曲と「ジュニアーズファーム」が一番お気に入りです!その後、愛妻リンダは乳癌に冒され1998年に亡くなってしまい、ポールの最も充実していたソロ時代の中で最も悲しい節目を迎えてしまいましたね。 (PS)イーグルス・デビュー50年を迎え「6人目のイーグルス」と呼ばれたJDサウザー、一般記事ではわが川崎市の穴場紹介を掲載していますのでまて是非ご来訪下さい。
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