「ユニオン・オブ・ザ・スネイク」は 1983年11月21日にリリースされたデュラン・デュランの3rdアルバム『セブン・アンド・ザ・ラグド・タイガー(Seven and the Ragged Tiger)』のリードシングルで、6週連続No.1の「Say Say Say」(ポール・マッカートニー&マイケル・ジャクソン)と4週連続2位の「Say It Isn't So」(ホール&オーツ)の厚い壁に阻まれ、Billboard Hot100 で3週連続3位(1984年の年間43位/ Cashbox 誌では週間No.1・年間20位)を記録した作品です。 同年9月下旬にメンバーのジョン・テイラーとロジャー・テイラーがプロモーションのため来日、『ミュージック・ライフ』誌1983年10月号にインタビューが掲載され10月にシングル「ユニオン・オブ・ザ・スネイク」が発売、サイモン・ル・ボンも“1983年のうちに日本ツアーを行う”と公言していたものの制作の遅れによりアルバム発表が11月21日までずれ込み、2度目の日本公演(Sing Blue Silver Tour)も翌年1月17日以降に延期されています。
1980年代前半といえば、デュラン・デュランだけでなくカルチャー・クラブやヒューマン・リーグ、スパンダー・バレエにカジャ・グー・グー、ABC、デヴィッド・ボウイら“ニューロマンティック”と呼ばれるイギリス勢の活躍が華盛りでした。 「Union Of The Snake」の作者はメンバー全員で、それまでの作品と比較してもロック&ファンクが色濃く反映されており、ロジャーは自身のビートとドラム・トラックについて、デヴィッド・ボウイ1983年の大ヒット曲「レッツ・ダンス」を元にしたと語っています。 その他にも冒頭部をはじめ色彩豊かなニック・ローズのキーボード、頭にこびりつくアンディ・テイラーのギター・リフ、アディショナル・ミュージシャンとしてアンディ・ハミルトンによるサックスの咆吼など、聴きどころ満載です。 また当時の流行と言えば『12インチシングル』であり、オリジナルに収まりきらなかったサウンドの試みがここに追加されています。
またデュラン・デュランといえば音楽に止まらず“MTVの申し子”と称された魅力も強みである一方、本曲のPVはラジオで掛かる一週間前にMTVで公開されたため、多くのラジオプログラマーから“Video killed the radio star!”と波紋を呼びました。 このPVは、前作『リオ』の一連の作品を担当したラッセル・マルケイ監督の考案によるものですが、彼は1984年のデュラン・デュランの北米ツアーの模様に独自の創作映像を融合させたコンサート映画『Arena (An Absurd Notion)』の構想に入っていたため、制作は彼の考案に基づいてサイモン・ミルン監督が務めています。 映像は、オーストラリア・シドニーから南へ26kmほどのところに位置するビーチタウン【クロヌラ(Cronulla)】の砂丘やシドニー大学の大ホールで撮影され、高価なセットや衣装、特殊メイクを駆使するなどプロモーションのレベルを超えた壮大な作品となっています。
「Union Of The Snake」のライブといえば1985年7月の伝説的イベント『LIVE AID』が有名ですが、上記『Arena』ver.も捨て難く、本項にはアルバム『Arena』の音源、次項に映画『Arena』の映像を掲載いたします。
~ Story ~
Telegram force and ready テレグラム・フォースとその備え Nightshades on a warning ナイトシェードの警告
The Union of the Snake is on the climb 一つに結合し蛇がよじ登ってくる Moving up it's gonna race it's gonna break 競う如く、這い上がる如く Through the borderline 境界を越え入らんと
デュラン・デュランの歌詞を収録した『The Book Of Words』で作詞者サイモン・ル・ボンは、【borderline】は“意識と潜在意識の間のことかもしれない”と言及しているそうです。 【(顕在/表面)意識】(普段自分で認識できる意識)と【潜在意識】(普段自分で認識できない意識)の関係性は『氷山』に譬(たと)えられ、水面上(自覚できる)の顕在意識は僅か3~10%であるのに対し、水面下の(自覚できない)潜在意識は90~97%ともいわれ、精神分析学の創始者として知られるジークムント・フロイトは【意識】(内心と外界状況を認識・調整し現実に適応)と【無意識】(本能的な欲求)の間に、教育や社会経験により形成された【前意識】(道徳や良心などの理性)の領域があるとしています。
一方サイモン・ル・ボンはインタビューで、【tantric sex】や“ジム・モリソンの歌詞”に関係していると言及しています。 精神分析のフロイトも夢分析に於いて蛇を“男根の象徴”としたように、とりわけロック界ではこの概念に基づく作品が多く存在し、ジム生前最後のドアーズの曲「Crawling King Snake」(※)は、まさにそうしたものを感じさせます(※カバー曲だがジムが歌詞を変更)。 ただし「Union Of The Snake」と共通するのは【the Snake is on the climb】な概念くらいであり、これとは別の曲かもしれません。
Crawling King Snake · The Doors
Duran Duran - "Union of the Snake" from AS THE LIGHTS GO DOWN
個人的な印象として、「Crawling King Snake」は舐めるようなセクシー・ソングであるのに対し、「Union Of The Snake」はそういう要素をほとんど感じません。 当時デュラン2はロック/ファンク志向を強めており、そっちのファンに耳を傾けてもらうためにドアーズの名を挙げたのではと勝手に想像しています。
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