I Wish~洋楽歌詞和訳&解説

80年代の洋楽ロック・ポップス&ビートルズを中心に、歌詞の和訳と解説+エッセイでお届けします

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「エンド・オブ・ジ・イノセンス」ドン・ヘンリー

2022.12.25

category : Eagles & Solo

Don Henley - The End Of The Innocence (1989年)

誰しも幼少から温めてきた大切なもの…大人になったらそれは捨て去るべきか、抱き続けるべきか?

《解説記事を更新》いたしました。【続きはこちら>>】をクリックしてご閲覧ください。


~ Lyrics ~

Writer(s): Don Henley, Bruce Hornsby /訳:Beat Wolf

思い出してごらん、真っ青な空の下
時間が緩やかに過ぎていった日々のことを
世界の出来事など気にも掛けず
ママとパパがそばで見守ってくれていた

だけど幸せなんて末永くは続かない
僕らはずっと、お伽話に毒されてきた
弁護士が些細な問題にまで立ち入ってくる
パパが家を逃げ出る羽目になってから


[Pre-Chorus]
それでも、僕らには行ける場所がある
まだ邪魔者が立ち入ってこない場所
そこに座り、流れゆく雲と
風に波打つ麦畑を眺めるのさ

[Chorus]
大地に寝転び
その髪をこの身に開(はだ)け
君のすべて僕に捧げておくれ
だけど、これが最後
これで僕の純真も終わる


あぁ、美しく広大な空さえ
今は僕を苛んでいるかのよう
人々は鋤(すき)の刃を剣へと打ち変えている
王と選んだ、くたびれ老いた男のために

だけど、安楽椅子の戦士は度々しくじる
僕らはずっと、お伽話に毒されてきた
弁護士は何から何まで処理し大儲けする
パパが嘘をつく羽目になってから

[Pre-Chorus]
[Chorus]


あぁこれがいつまで続くか、誰が知り得よう
僕らはあまりに急ぎ、あまりに遠く来てしまった
だけど、その背後に舞い上がった土煙の中に
誰しも、それぞれ故(ふる)い小さな郷(さと)がある

僕は、それを忘れず心に留めていたい 
だから唯一度、僕にくちづけをしてほしい
そして最後に、その姿をこの目に焼きつけさせておくれ
二人がさよならを交わす前に

[Chorus]
[Outro]



~ 概要 ~

「エンド・オブ・ジ・イノセンス」はイーグルスのドン・ヘンリーが1989年に発表した 3rd ソロ・アルバム『エンド・オブ・ジ・イノセンス(The End of the Innocence)』からのリード・シングルで、Billboard Hot 100 の8位(年間99位)を記録した作品です。
本曲は「ザ・ウェイ・イット・イズ」ブルース・ホーンズビーとドンとの共作であり、同曲をご存じの方ならすぐお気づきになるように、本曲の温かみあるピアノもブルースが演奏、更に『スイングジャーナル』誌の人気投票ソプラノ・サックス海外部門で1973年から29年連続1位に輝いたソプラノ・サックス奏者ウェイン・ショーターもゲストとして参加しています。

本曲は1990年のグラミーで最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞にノミネートされ、授賞式ではドンとブルースとの共演が披露されました。
同年は“ベット・ミドラーの大復活”が印象づけられた年であり、残念ながら本曲は2賞とも彼女の「Wind Beneath My Wings」に敗れたものの、ドンは1986年の「The Boys of Summer」に続き本曲で【最優秀男性ロック・ヴォーカル・パフォーマンス】を受賞しています。

一方、本アルバムはアメリカで600万枚を売り上げた彼にとって最大のヒット作であるだけでなく、オールミュージックで評論家 Vik Iyengar は“歌詞とメロディーがシニカルと希望でバランスよく調和されており、メッセージ性のあるポップミュージックが好きな人にお薦め”と、評価しました。
ローリングストーン誌も同様の評価を与えており、2012年の【the 500 greatest albums of all time】で 389位に位置付けています。

また、80年代を代表する名作ミュージック・ビデオの一つ「The Boys of Summer」を思い起こさせる本曲のモノクロのPVは、1990年の『MTV Video Music Awards』で【最優秀男性ビデオ】を受賞しました(日本でも一世を風靡したM.C.ハマーの「U Can't Touch This」を退けて)。
監督は後に『エイリアン3』『セブン』など映画監督として知られるようになるデヴィッド・フィンチャーで、本PVは同年【Video of the Year】にもノミネートされましたが、その4作品のうち本作とエアロスミスの「Janie's Got A Gun」、マドンナの「Vogue」の3作品をフィンチャー監督が占める活躍ぶりでした。

ライブは歌唱したドンはもちろん、共作者でピアノを演奏したブルース・ホーンズビーも弾き語りでパフォーマンスを披露しています。
興味深いのはボブ・ディランが2002年のアメリカ・ツアーでよく演奏していたことで、但しこれも、例によってカバーというより“ディラン節”であることは否定しません。


 
 



~ Story ~

With mommy and daddy standin' by
ママとパパがそばで見守ってくれていた

このラインは、アメリカの作曲家ジョージ・ガーシュウィンが1935年に作曲した3幕9場からなるオペラ『ポーギーとベス』のアリア「Summertime」からの引用で(mommy と daddy の順は入れ替わっているが)、恐らく「The End Of The Innocence」の着想はこれに由るものでしょう。
「Summertime」は劇中に於いて、“夏になれば豊かになれる、魚は跳ねて、綿の木は伸びる。父さんは金持ち、母さんはきれい。だから坊や、泣くのはおよし…”と歌われる子守歌です。

“アメリカン・ドリーム”を象徴する概念と言えばディズニーの“If you can dream it, you can do it(夢見ることができれば、それは実現できる)”ですが、『ポーギーとベス』は1920年代初頭の南部の町に住む貧しいアフリカ系アメリカ人の過酷な生活を背景とした物語であり、ジム・クロウ法など“法律で人種差別が正当化された時代”にあって、黒人がこれらの夢を実現させることは至難であり、親はどのような思いで子守歌を歌っていたのでしょう…。


But "happily ever after" fails
だけど幸せなんて末永くは続かない

【happily ever after】は“(結婚した二人などが)その後いつまでも幸せに…”という意味で、“Once upon a time(昔々…)”で始まり、“They lived happily ever after.(その後ずっと幸せに暮らしました)”で終わるのが絵本や童話の決まり文句です。
半面、厳しい現実を知る大人の世界では“おとぎ話ではそうだが、現実はそう簡単ではない…”のような文脈でも用いられます。

 
George Gershwin - Summertime / America the Beautiful

O' beautiful, for spacious skies
あぁ、美しく広大な空

このラインも、“アメリカ第2の国歌”としてアメリカ国民に愛唱されている愛国歌「America the Beautiful」からの引用です。
これは作詞者のキャサリン・リー・ベイツが、1895年にロッキー山脈パイクスピーク山頂から見た大自然の美しさに感銘を受けて創作したものですが、見る者の“心に雲”が懸かっていては、どんなに美しい風景も真価が伝わらないでしょう。

主人公も子どもの頃は空の美しさが見えていたのに、いま彼に懸かっている“心に雲”とは?


They're beating plowshares into swords
人々は鋤(すき)の刃を剣へと打ち変えている

これも『旧約聖書』からの引用で、『ヨエル書』(3章10節)に“あなたがたの鋤を剣に、あなたがたの鎌を槍に打ちかえよ”とあります。
一方『イザヤ書』(2章4節)には“彼らは剣を打ちかえて鋤とし、槍を打ちかえて鎌とする。国は国に向かって剣を上げず、もはや戦うことを学ばない”と真逆のことが記されており、ニューヨーク国連本部広場のモニュメント(Isaiah Wall)にも刻まれている一文です。

1980年代のアメリカは『スター・ウォーズ計画』により、宇宙空間にまで戦争を展開するための過大な軍事費を投じた一方、非軍事部門の支出を大幅に削減したため家族経営の農家の困窮・減少を招き、ドン・ヘンリーをはじめボブ・ディラン、ウィリー・ネルソン、ジョン・メレンキャンプ、ニール・ヤング、トム・ペティ、ビーチ・ボーイズ、ボン・ジョヴィ、ヴァン・ヘイレンほか多くのロック・ミュージシャンが農家を支援するため1985年に慈善コンサート『ファーム・エイド』を開催し、900万ドル以上を調達しました。


For this tired old man that we elected king
王と選んだ、くたびれ老いた男のために

【this tired old man】が第40代アメリカ大統領ロナルド・レーガンを指していることは、PVでこのフレーズの所で彼のポスターがクローズアップされていることからも、まず間違いないでしょう。
『スター・ウォーズ計画』を推し進めた当人であるレーガン大統領は、1987年に前立腺癌の摘出手術を受けた当時76歳に迫る高齢で、その後も在任中にアルツハイマー病の症状が現れるなど、それらの病気によって最後の2年は政策の詳細には関与していなかったといわれています。



~ Epilogue ~

ドン・ヘンリーは「The End Of The Innocence」で、何を表そうとしたのか…。

まず根底にあるのは、青い空や両親の愛情を純真な心で受け止め幸福だった少年時代から、両親の愛が必ずしも永遠でないことやプラトニックではない自らの性を体験し、“純真に別れを告げた自分への懐疑”でしょう。 
主人公は純真ではない大人の世界の仲間入りし、その一員として適合するよう努めてきたものの、ふと見上げた空の美しさが彼を責め苛んでいるように思え、自らの歩んできた道を顧み、本当に大切にすべきものを見失っていた自分に気づき戸惑いを覚えている側面が窺えます。

少年時代、子どもの気持ちなど一顧だにせず、彼の大切な両親を別れさせるビジネスを冷徹に遂行した弁護士のような大人になっている自分に…。


Armchair warriors often fail
だけど、安楽椅子の戦士は度々しくじる

そしてもう一つは、“純真を捨て去った心が構築する社会への懐疑”と想像します。
お伽話のヒーロー/ヒロインは誰もが“純真”なのに、実社会の王は“邪心”ばかりです。

PVでこのフレーズの所から映し出されているのが、レーガン政権下の1986年に発覚した『イラン・コントラ事件』を追求する議会公聴会の映像です。
この事件は、イラン=イラク戦争でイラン領内への侵攻したイラクを支援したアメリカ各国にイランへの武器輸出を止めるよう求めていながら、自らは密かにイランへ武器輸出を行い(つまりイラン/イラク双方に武器を売っていた)、その儲けでニカラグアの左派政権の転覆を工作し反政府右派ゲリラ『コントラ』を支援(これはアメリカの議会決議にも違反)していたことが露見、アメリカ国内のみならず世界を巻き込む政治的スキャンダルに発展したものの、真相はうやむやのままレーガン大統領も責任を問われませんでした。

彼らは常に“国益のため”を口にしますが、時々の利害に基づく工作と戦争は一時の協力関係は得られても本当の信頼は決して構築し得るものではなく、事実、アメリカがイラン=イラク戦争で支援したイラクのサダム=フセイン大統領や、ソ連のアフガニスタン侵攻で支援したオサマ(ウサマ)=ビン=ラーディンとの蜜月がその後何をもたらしたか、それを証明しています。

このような信義の欠片もない“自国政府のありさま”を見せつけられ、その『建国理念』が脳裏に深く刻まれているアメリカ国民ならば大いに失望し、怒りと危機感を抱くに違いありません。
しかしそんな大統領を選んだのは国民自身であり、その自責の念こそが主人公に“責め苛む空”を見させたのでしょう。

主人公が幼少期に幸福であったのは、我が子の健やかな成長を両親の“純真”が見守ってくれていたからであり、もし国民全体がそのような幸福感を認識することがあるとすれば、それは国家が国民の健やかな成長を“純真”で見守ることです。
そして彼が忘れず心に留め置かねばならないと言っている【small town】とは、幸福を育む土壌となった文字通り“故郷”であり、そして合衆国がイギリスからの独立の根拠として掲げた“すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている”に立ち返ることなのではないでしょうか…。
それこそが“アメリカの純真”であり、国境を越えた“すべての人間”と共有することが、人類の宿願である“世界平和”を実現する唯一の道と考えます。

“純真”は捨て去るべき童心ではない、世界を構成する人類すべてが共有すべき心です。



Don Henley & Bruce Hornsby - The End Of The Innocence

最後までお読みいただき、ありがとうございました ♪
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tags : 1989年 ソフト・ロック 人生 郷愁 葛藤 名作MV デヴィッド・フィンチャー 

コメント

こんばんは。この歌大好きでした。ただ、ミュージックビデオは見たことがなかったので、レーガンやノース中佐が映っていたとは知りませんでした。歌詞もよくわからなかったのですが、曲からはアメリカの広大なイメージは沸いてきました。歌詞や背景の解説、ありがとうございます。現在とオーバーラップするような気がします。ホーンズビーのThe Way It Is も好きなので、またいつか取り上げて頂ければ幸いです。

2023.01.06  みりびにり  編集

みりびにりさん

確かに曲だけで魅力的ですし、ましてノース中佐なんてかなりマニアックな情報ですね。(笑)
歌詞はたぶん、一定の年齢を過ぎると誰もが感じることと思います。
でもみんながそれを感じているとしたら、それは社会が病んでいるということです。
個人の病気が放っておいて治らないように、社会の病みも放置すると悪化するでしょう。
The Way It Is は本記事中に過去ログのリンクがあるので、そこからお楽しみください。

2023.01.07  Beat Wolf  編集

返信ありがとうございました。さっそくThe Way It Is も見せて頂きました。80年代のサウンドはいいですね。心に響きます。Beat Wolf さんがこの歌を取り上げてから、ますます格差が広がってしまいましたね。私が昔の歌が好きなのも、一億総中流時代に郷愁を覚えるのかもしれません。

2023.01.08  みりびにり  編集

みりびにりさん

80年代までは曲もサウンドもカラフルでした。
その後は徐々に色味が少なくなっていったような気がします。
残念ですが、格差が広がる法律や政策を続けてきたので必然そうなります。
政治家や役人が日々会っているのは、カネと組織票をくれる金持ちと宗教団体ですから。

2023.01.08  Beat Wolf  編集

エンド・オブ・ジ・イノセンス

Beat wolfさん
はじめまして。

こちらのサイト、自分がブログをはじめる前から検索で見つけ時折お邪魔させていただいて洋楽の歌詞の素晴らしさをあらためて知りカンゲキ!しておりました。

今回ー大好きな曲のご紹介ではじめて勇気を出してコメントさせていただきます。当時ビルボードを毎週チェックしているときで「エンド・オブー」はPVもノスタルジーで曲も素晴らしくなによりドン・ヘンリーがとてもステキに歳を重ねていたのが印象的で、、記事を拝見し曲にはただ懐かしむだけでなく大人になることへの痛み、アメリカそのものへの思いも含まれていたのですね。そう思って聴くとよりジーンとしてしまいました。

お書きになっているように同年のベッド・ミドラーの曲も大好きだったので89年のグラミー賞はハラハラドキドキでした。最初のコメントが長くなって申し訳ございません。これからも懐かしい大好きな曲、歌詞のご紹介楽しみにしております。

2023.01.31  m-pon5  編集

Re: エンド・オブ・ジ・イノセンス

はじめまして。
私もこの年のグラミーはとても印象深いものがあり、この曲もその一つです。
この曲は主人公のノスタルジーとして十分味わえますが、アメリカの文化や社会、宗教など予備知識があればさらに幾つもの要素がちりばめられていることに気づき、遥かに深く味わうことができる素晴らしい歌詞だと思います。
「ホテル・カリフォルニア」 をはじめ、ドン・ヘンリーはこういう構造の創作がとても上手ですね。

ベッド・ミドラーは、受賞時のコメントがとても印象的でした。
そして、最後のパフォーマンスも…。

2023.01.31  Beat Wolf  編集

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