「エンド・オブ・ジ・イノセンス」はイーグルスのドン・ヘンリーが1989年に発表した 3rd ソロ・アルバム『エンド・オブ・ジ・イノセンス(The End of the Innocence)』からのリード・シングルで、Billboard Hot 100 の8位(年間99位)を記録した作品です。 本曲は「ザ・ウェイ・イット・イズ」のブルース・ホーンズビーとドンとの共作であり、同曲をご存じの方ならすぐお気づきになるように、本曲の温かみあるピアノもブルースが演奏、更に『スイングジャーナル』誌の人気投票ソプラノ・サックス海外部門で1973年から29年連続1位に輝いたソプラノ・サックス奏者ウェイン・ショーターもゲストとして参加しています。
本曲は1990年のグラミーで最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞にノミネートされ、授賞式ではドンとブルースとの共演が披露されました。 同年は“ベット・ミドラーの大復活”が印象づけられた年であり、残念ながら本曲は2賞とも彼女の「Wind Beneath My Wings」に敗れたものの、ドンは1986年の「The Boys of Summer」に続き本曲で【最優秀男性ロック・ヴォーカル・パフォーマンス】を受賞しています。
一方、本アルバムはアメリカで600万枚を売り上げた彼にとって最大のヒット作であるだけでなく、オールミュージックで評論家 Vik Iyengar は“歌詞とメロディーがシニカルと希望でバランスよく調和されており、メッセージ性のあるポップミュージックが好きな人にお薦め”と、評価しました。 ローリングストーン誌も同様の評価を与えており、2012年の【the 500 greatest albums of all time】で 389位に位置付けています。
また、80年代を代表する名作ミュージック・ビデオの一つ「The Boys of Summer」を思い起こさせる本曲のモノクロのPVは、1990年の『MTV Video Music Awards』で【最優秀男性ビデオ】を受賞しました(日本でも一世を風靡したM.C.ハマーの「U Can't Touch This」を退けて)。 監督は後に『エイリアン3』『セブン』など映画監督として知られるようになるデヴィッド・フィンチャーで、本PVは同年【Video of the Year】にもノミネートされましたが、その4作品のうち本作とエアロスミスの「Janie's Got A Gun」、マドンナの「Vogue」の3作品をフィンチャー監督が占める活躍ぶりでした。
With mommy and daddy standin' by ママとパパがそばで見守ってくれていた
このラインは、アメリカの作曲家ジョージ・ガーシュウィンが1935年に作曲した3幕9場からなるオペラ『ポーギーとベス』のアリア「Summertime」からの引用で(mommy と daddy の順は入れ替わっているが)、恐らく「The End Of The Innocence」の着想はこれに由るものでしょう。 「Summertime」は劇中に於いて、“夏になれば豊かになれる、魚は跳ねて、綿の木は伸びる。父さんは金持ち、母さんはきれい。だから坊や、泣くのはおよし…”と歌われる子守歌です。
“アメリカン・ドリーム”を象徴する概念と言えばディズニーの“If you can dream it, you can do it(夢見ることができれば、それは実現できる)”ですが、『ポーギーとベス』は1920年代初頭の南部の町に住む貧しいアフリカ系アメリカ人の過酷な生活を背景とした物語であり、ジム・クロウ法など“法律で人種差別が正当化された時代”にあって、黒人がこれらの夢を実現させることは至難であり、親はどのような思いで子守歌を歌っていたのでしょう…。
But "happily ever after" fails だけど幸せなんて末永くは続かない
【happily ever after】は“(結婚した二人などが)その後いつまでも幸せに…”という意味で、“Once upon a time(昔々…)”で始まり、“They lived happily ever after.(その後ずっと幸せに暮らしました)”で終わるのが絵本や童話の決まり文句です。 半面、厳しい現実を知る大人の世界では“おとぎ話ではそうだが、現実はそう簡単ではない…”のような文脈でも用いられます。
George Gershwin - Summertime / America the Beautiful
O' beautiful, for spacious skies あぁ、美しく広大な空
このラインも、“アメリカ第2の国歌”としてアメリカ国民に愛唱されている愛国歌「America the Beautiful」からの引用です。 これは作詞者のキャサリン・リー・ベイツが、1895年にロッキー山脈パイクスピーク山頂から見た大自然の美しさに感銘を受けて創作したものですが、見る者の“心に雲”が懸かっていては、どんなに美しい風景も真価が伝わらないでしょう。
主人公も子どもの頃は空の美しさが見えていたのに、いま彼に懸かっている“心に雲”とは?
They're beating plowshares into swords 人々は鋤(すき)の刃を剣へと打ち変えている
For this tired old man that we elected king 王と選んだ、くたびれ老いた男のために
【this tired old man】が第40代アメリカ大統領ロナルド・レーガンを指していることは、PVでこのフレーズの所で彼のポスターがクローズアップされていることからも、まず間違いないでしょう。 『スター・ウォーズ計画』を推し進めた当人であるレーガン大統領は、1987年に前立腺癌の摘出手術を受けた当時76歳に迫る高齢で、その後も在任中にアルツハイマー病の症状が現れるなど、それらの病気によって最後の2年は政策の詳細には関与していなかったといわれています。
こんばんは。この歌大好きでした。ただ、ミュージックビデオは見たことがなかったので、レーガンやノース中佐が映っていたとは知りませんでした。歌詞もよくわからなかったのですが、曲からはアメリカの広大なイメージは沸いてきました。歌詞や背景の解説、ありがとうございます。現在とオーバーラップするような気がします。ホーンズビーのThe Way It Is も好きなので、またいつか取り上げて頂ければ幸いです。
確かに曲だけで魅力的ですし、ましてノース中佐なんてかなりマニアックな情報ですね。(笑) 歌詞はたぶん、一定の年齢を過ぎると誰もが感じることと思います。 でもみんながそれを感じているとしたら、それは社会が病んでいるということです。 個人の病気が放っておいて治らないように、社会の病みも放置すると悪化するでしょう。 The Way It Is は本記事中に過去ログのリンクがあるので、そこからお楽しみください。
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