ボニー・レイットは1971年にデビューしたブルース/R&Bを志向するアメリカのシンガー・ソングライターです。 半世紀に亘るキャリアでありながらこれまでの来日は2回と、日本ではあまり知名度は高くないかもしれませんが女性ミュージシャンとして高く評価された存在であり、グラミーを15回受賞、ローリング・ストーン誌は彼女を【100 Greatest Singers of All Time 第50位/100 Greatest Guitarists of All Time 第89位】に位置づけています。
「ジャスト・ライク・ザット」は、ボニー・レイット2022年の18thアルバム『Just Like That...』のタイトル・トラックです。 作者はボニー自身で、冒頭でも触れたとおり2023年2月5日(現地時間)に行われた『第65回グラミー賞授賞式』に於いて本曲で主要4部門の一つ【最優秀楽曲賞】を含む2冠、アルバム収録の「Made Up Mind」が【Best Americana Performance】を受賞し、計3冠に輝きました。 授賞式でボニーは“多くの人がこの曲に反応してくれました。ジョン・プラインへの愛ゆえです。そして、彼への愛こそがこの曲のインスピレーションで、物語を内面から語ることができました…”と感謝を捧げていますが、このジョン・プラインはボニーが“フォークの伝統を守る真のフォークシンガーの最高峰”と形容する長年の友人であり、2019年9月に『第18回アメリカーナ・オナーズ&アワーズ』で彼が受賞した際に彼女も1973年から歌い続けた思い出の「Angel From Montgomery」をデュエットし2020年4月7日に彼が急逝した経緯があります。
本アルバムは2020年の新型コロナ・パンデミック拡大に伴うロックダウンや行動制限が緩和されるようになった頃、ボニーが自分の居住地である北カリフォルニアに初めて自分のバンドを呼び寄せレコーディングを行なったものであり、コロナ・パンデミックでの経験がアルバム『Just Like That...』に投影されています。 「Made Up Mind」は“コロナ・パンデミック”を、「Living For The Ones」は“パンデミックへの悲観とその中でも生きてゆく強い決意”を抱かせるでしょう。 また「Love So Strong」はジャマイカで最も有名なレゲエ・スカ・グループの1つであるトゥーツ・アンド・ザ・メイタルズ(Toots & the Maytals)のカバーですが、そのリーダー、フレデリック・“トゥーツ”・ヒバート(Frederick ‘Toots’ Hibbert)は直前にコロナ陽性が判明し2020年9月12日に亡くなっています。 そして、「Just Like That」にインスピレーションを与えたジョン・プラインの死因もまた、新型コロナによる合併症でした。
~ Story ~
And just like that your life can change. 人生は、何の前触れもなく変わり得る
アルバム・タイトル『Just Like That...』の真意は、このフレーズに込められています。 前項で記したように本作の背景には、いまを生きる人々の殆どにとって人生で初めてとなる全世界を巻き込んだ大パンデミックが発生し、ボニー自身も何人かの大切な人を突然失った辛い経験がありました。
It was your son's heart that saved me 僕の命を救ってくれたのは、あなたの息子さんの心臓です And a life you gave us both そしてあなたは、僕たち二人に命を授けてくれました”
ところで、ボニーが心臓移植に関連する作品を発表したのは、今回が初めてではありません。 1989年にリリースした『Nick of Time』に収録の「Have a Heart」という楽曲があることをご記憶の方もあるでしょう。 「Have a Heart」はシングルとしても49位を記録しましたが、そのPVには心臓移植に関連する映像がフィーチャーされています(※「Have a Heart」自体は心臓移植を題材とした楽曲ではない)。
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