I Wish~洋楽歌詞和訳&解説

80年代の洋楽ロック・ポップス&ビートルズを中心に、歌詞の和訳と解説+エッセイでお届けします

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追悼・坂本龍一

2023.04.12

category : Japanese music

音を極めるほど自然に還った音楽家の生涯

クールな教授にとって異端も、後から振り返ると“楽しい時代”だったと思わされる映像から…

《解説記事を更新》いたしました。【続きはこちら>>】をクリックしてご閲覧ください。


既にご承知のように作曲家/ピアニスト、そしてイエロー・マジック・オーケストラ(Y.M.O.)のメンバーとして活躍した坂本龍一さん(以降敬称略;教授)が3月28日に亡くなられました(享年71)。
Y.M.O.のメンバーで同い年の高橋幸宏さんが今年1月11日に亡くなって僅か2か月余り、ファンの方はさぞショックを受けられていることでしょう。

本記事では私個人の視点から教授の辿った軌跡を振り返り、追悼といたします。



~ 1982-1983年(散開) ~

そもそも、私が初めてリアルタイムで“動く”教授を目にしたのは、冒頭の動画に示した1982年2月リリースの忌野清志郎+坂本龍一「い・け・な・いルージュマジック」で、それはそれは“強烈な出会い”でした!
本曲は『資生堂ルア・リップカラークリエイター CM曲』であり、たぶん私はそれで気に入り生放送音楽番組『ザ・ベストテン』で初めて彼らの映像を見たと記憶しますが、全国に発信されたそのパフォーマンスは“男同士がキス/キーボードの下に潜り込み床を転がり歌う”見たこともない衝撃で(殆ど“清志郎が一人で暴れていた”だけですが…)、その眩い光が一瞬で私の心に彼らを強烈に焼き付けた一方、その後長らく彼らの本質を誤認させることになります。

これほどわかりやすい楽曲は数ある教授の作品でも屈指であり、TVの宣伝効果も相乗してオリコン週間No.1(1982年度年間20位)/売り上げ50万枚を記録した、二人にとって最大級のヒット曲…
この“ア・ブ・ナ・イ”二人の組み合わせは資生堂側のアイデアによるもので、以前から清志郎との共同を切望していた教授が二つ返事で実現、教授がシンセサイザーで思い浮かんだコードに清志郎がノリで思いついた詞を付け加え歌い創作されたそうですが、タイトルの「い・け・な・いルージュマジック」は資生堂が提示した「すてきなルージュマジック」を、二人が独断で変更したものだそうです。


そして、私にとって初めてのリアルタイムY.M.O.は1983年3月のシングル「君に、胸キュン。 (浮気なヴァカンス)」でした。
この曲(作詞:松本隆/作曲:Y.M.O.)も同年の松田聖子「天国のキッス」(作詞:松本隆/作曲:細野晴臣)を彷彿とさせるキャッチーなポップ・ナンバーで、『カネボウ化粧品のCM曲』としてオリコン週間2位(1982年度年間20位)/売り上げ34.7万枚を記録したY.M.O.最大のヒット・シングル。
一方で、特にPVを見ると顕著ですが、それまでとは異なる音楽性とファッション、おじさんのアイドル・スマイルなど、音楽はともかく私の中で“変なおじさん”のイメージが肉づけされてゆくことになります。

同年5月、「君に、胸キュン。」を収録した7thアルバム『浮気なぼくら』をリリースし3年ぶりのオリコンNo.1に輝きますが、その絶好調に反し83年12月には8thアルバム『サーヴィス』で“散開(解散)”してしまい、ますます“理解不能”を強めました。
実は82年時点でY.M.O.は開店休業状態、83年の活動はメンバーが解散を前提とした“消化試合”のようなもので、それぞれが個々に作曲・歌唱している作品が多いため、一般的な評価は高くないものの「Perspective」は教授自身“YMOのフェイバリット”に挙げている楽曲で、自身のアルバム『/04』でセルフ・カバーしています。

 
「君に、胸キュン。 (浮気なヴァカンス)」 / Perspective · 坂本龍一


そして恐らく教授の人生で重要な転換点となったと言えるのが、“デヴィッド・ボウイとキス・シーン”を演じた1983年5月公開の映画『戦場のメリークリスマス』への出演と、今も彼の代表曲の一つとして語られる「メリー・クリスマス ミスターローレンス」ほかを作曲/演奏し日本人で唯一・英国アカデミー賞【作曲賞】を受賞した映画音楽で、この映画と楽曲については過去ログに詳細を記述してあるのでリンクからご参照ください。



~ 1978(ソロ/Y.M.O.デビュー)-1981年(Y.M.O.の絶頂期) ~

ここからは時代を遡って、それ以前の教授とY.M.O.の作品を振り返ってみましょう。

まず初期の彼を語る上で欠かせない楽曲と言えば、「千のナイフ THOUSAND KNIVES」と「東風(TONG POO)」です。
「千のナイフ」は1978年10月の1stソロ・アルバムのタイトル曲で、ヴォコーダーによる毛沢東の詩の朗読で幕を開け、渡辺香津美のギター・ソロがフィーチャーされています。
このアルバムのため教授はレコーディングに寝る間も惜しんで339時間もの時間を費やしたにも拘らず売上はたったの200枚、残り200枚は返品という散々な結果でした。
「東風」は同年11月のY.M.O.の1stアルバムの収録曲、教授が北京交響楽団をイメージして書いた曲でタイトルは当時メンバーの行き着けの中華料理店の店名、またサウンドには当時大流行したアーケードゲーム風の音が施されており、これは細野さんが喫茶店に入り浸ってゲームをやっていたことが影響しているようです。

 
千のナイフ / 東風


続く1979年9月の2ndアルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』(SOLID STATE SURVIVOR) は日本で“テクノ・ブーム”を巻き起こし、世界の音楽シーンにも影響を及ぼしたY.M.O.の最高傑作です。
収録曲である「TECHNOPOLIS」「RYDEEN」「BEHIND THE MASK」はそのままY.M.O.の代表曲であり、うち「TECHNOPOLIS」「BEHIND THE MASK」が教授による作曲、「BEHIND THE MASK」(過去ログ)は彼が断らなければ史上最も売れたマイケル・ジャクソンのアルバム『スリラー』に収録される計画もありました。

1980年の『増殖 - X∞ Multiplies』では、当時ラジオを中心に活躍していたコント・ユニット【スネークマンショー】(桑原茂一/小林克也/伊武雅刀)をフィーチャーし曲間にコントを挟む大胆な試みが大当たり、幸宏/教授/クリス・モズデルによる「NICE AGE」は“ポール・マッカートニーの事件”を反映したことでも話題を呼びました。

1981年の『TECHNODELIC』はミニマル・ミュージックをテーマに取り入れたアルバムであり、細野さんのそうした要望から幸宏/教授が創作した「体操」では教授が拡声器を使って“痙攣の運動”を指揮するナンセンスな作風で、そのMVでもメンバーが小学生に扮し教授が“主役”を演じています。

 



~ 意外な教授の提供曲? ~

ところで教授と言えば、著名な作曲家として数多くの名曲を残した一方、細野さんのように第三者への楽曲提供で華やかな活躍の印象は薄いのではないでしょうか…。
実際、薬師丸ひろ子や中森明菜、原田知世、荻野目洋子、郷ひろみ、今井美樹、KinKi Kids、シンディ・ローパーら錚々たるスターへ楽曲を提供していますが、あまりヒットと関係していないのも事実です。

そんな中で私に一聴で大ヒットを確信させたのが1986年の岡田有希子「くちびるNetwork」(実際にオリコン週間No.1)であり、彼のキャリア中でもヒット性という意味で屈指の名曲といえるでしょう。


岡田有希子 「くちびるNetwork」



~ “世界の Sakamoto ”から“音の求道者・坂本龍一”へ ~

その後の軌跡から振り返ってみると、私がリアルタイムでその音楽に接することになった1982-83年は、教授にとって運命を左右する“重要な転換期”だったことがわかります。
79-80年に人気の絶頂にあったY.M.O.は81年の2枚のアルバムで暗く前衛的な作風に転じセールスが激減、教授と細野さんの軋轢は深刻となりメンバーは81年末でバンドを解散する意向を抱き、82年は開店休業状態で(レコード会社の説得)、彼らはそれぞれ“解散後の身の振り方”を見出す必要がありました。
そんな時期、教授にとって82年のCM曲と映画出演オファー(音楽担当は出演の条件として教授が自ら売り込み獲得した)は絶好のチャンスでしたが、それはこれまでの“自分の志向で創る音楽”から“他人の要望に沿って創る音楽”への挑戦でもあったわけです。
その挑戦がもたらした新たな可能性こそ、Y.M.O.を超えて自らの代名詞となった「Merry Christmas, Mr. Lawrence」であり、その道の世界最高栄誉である【アカデミー作曲賞/ゴールデングローブ作曲賞/グラミー 映画・テレビサウンドトラック部門賞】を獲得した1987年の映画『ラストエンペラー』サウンドトラックでした。


The Last Emperor (Theme) · Ryuichi Sakamoto


“世界の Sakamoto ”と形容されるようになった教授はその後、生涯に亘って数々の映画音楽やCM曲などを手掛けてきたことは多くの人も接して知る所ですが、それらの音楽は彼の“ほんの一端”に過ぎません。
Y.M.O.が散開した後、教授は代名詞だった電子楽器だけでなくアコースティック・ピアノやその他の楽器を駆使し、テクノ以外にもポップやロック、ヒップホップやR&B、ボサノヴァから民俗音楽、時として自らヴォーカルを務めるなどさまざまな音楽表現を試み、その生涯に21枚のオリジナル・アルバムを発表してきました。

2009年の『out of noise』では、音楽の三要素である旋律・和音・拍子の要素を脱構築し、繰り返し演奏、不協和音、北極圏で録音した“氷河の下を流れる水の音”など、現代音楽的な手法を全面的に取り入れ創作されました。
自然を愛する教授は自身の音楽の中でも“自然から発せられる声”を大切にしている節があり、2017年のアルバム『async』の「ZURE」では、東日本大震災で浸水した宮城県の学校にあった『津波ピアノ』を“自然が調律した音”として敢えて調律し直さずそのまま録音に用いました。
(※個人的解釈ですが、【大震災がもたらしたもの】を“津波で調律が狂ったピアノの声”を通して何かを表そうとしたのではないか…)

 
ice / ZURE



~ Epilogue ~

坂本龍一さん死去「つらい。もう、逝かせてくれ」家族、医師に漏らす…凄絶がん闘病 音楽家のまま力尽く

私にとってショックだったのは、教授がそんな言葉を吐く(亡くなる1、2日前)ほど凄絶な闘病生活を過ごしていたことです。
教授は2014年に中咽頭がんと診断されるも翌年に寛解、しかし2020年6月に直腸がんと診断され同年末に肝臓やリンパへの転移が発覚、医師から“何もしなければ余命半年、強い抗ガン剤を使い苦しい化学療法を行っても5年生存率は50%”と宣告、更なる検査で肺への転移も見つかり、この2年間に大小あわせ6度の手術を受け外科手術で対処できる腫瘍は全て取り終えたものの病巣はまだ残っており、あとは薬で全身的に対処するしかない状態だったといいます。

そんな凄絶な闘病生活を続けていた教授が、日記を書くようにピアノとシンセサイザーを使用して制作した音楽のスケッチをまとめた作品集(2021年3月10日-2022年4月4日)が、彼の最後の誕生日となった2023年1月17日に発表したアルバム『12』で、その一作が教授の呼吸のような音が聴こえる「20220207」です。

 
「20220207」 / Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022 - message


ライヴでコンサートをやりきる体力がない――。この形式での演奏を見ていただくのは、これが最後になるかもしれない

そう悟った教授が昨年9月中旬にNHKのスタジオで1日に数曲ずつ演奏し、それを数日かけてコンサート形式の映像として編集した最後のピアノ・ソロ・コンサート『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022』が、同年12月11日に世界に向けて配信されました。
本記事の最後は、そのコンサート映像から「Merry Christmas Mr. Lawrence」をお聴きください。

R.I.P. Ryuichi Sakamoto



Merry Christmas Mr. Lawrence / Ryuichi Sakamoto - From Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022

最後までお読みいただき、ありがとうございました ♪
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tags : 追悼 テクノ クラシック ピアノ インストゥルメンタル 映画80's 

コメント

おお、Beat Wolfさんが日本のロックミュージシャンを取り上げるのは珍しい!・・と思ったら、この曲は忌野清志郎と坂本龍一とのコラボでしたね!確かにこのコンビは危なさを感じましたが、日本ロックの最先端を行っているなあよ強烈な印象でした。お二方とも亡くなってしまいましたね。今年は洋楽ではジェフ・ベック、デビッド・クロスビー、バート・バカラック、ボビー・コールドウェル・・、日本ではYMO両巨頭(高橋幸宏・坂本龍一)、鮎川誠など大物の訃報が連続していますね。まだまだビックリするような訃報がありそう・・。2016年の大物アーティスト達(デヴィッドボウイ等)が相次いで亡くなったショックの年の再現にならないことを祈るばかりです。

2023.04.13  ローリングウエスト  編集

こんにちは。

僕はほとんど坂本龍一は知りませんが、報道だけ見ていると人気があったんですね。忌野清志郎とどうしてそうなるのか?(忌野と井上陽水の関係と似ている)
やはり異質な才能のぶつかり合いは新しいモノを生み出すのでしょうか?

ご冥福をお祈り致します。

2023.04.13  忠      編集

ローリングウエストさん

清志郎と教授のコラボは強烈でした。
恐らく日本のテレビ史上、こんなことをした人はいないでしょう。
誰でもいつかはその日が来るものですが、今年はちょっと年初からペースが速すぎますね。
ビート」たけしが戦メリで生きてるのは自分だけ、みたいなことを言っていました。

2023.04.13  Beat Wolf  編集

忠さん

そうですね。知っている人と知らない人では悲しみも違います。
異質が交わることで新しいモノを生み出すこともあれば争いになることもあります。
同質が交わって上手くいくこともあればかえって争いになることもあります。
結果は個別次第でしょう。

2023.04.13  Beat Wolf  編集

おはようございます!早速に一般記事へのご来訪ありがとうございました。今年はまだまだ大物訃報があるかな~と半分覚悟しています。こちらも洋楽記事ではボビー・コールドウエル哀悼特集をしておりますので覗いてみて下さい。

2023.04.14  ローリングウエスト  編集

ローリングウエストさん

ローリングウエストさんがお聴きになられた人たちは私の範囲より高齢なので、そうでしょう。
こればかりは誰も宿命なので仕方ありません。

2023.04.15  Beat Wolf  編集

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