「フロム・ミー・トゥ・ユー」はビートルズが1963年4月11日にイギリスでリリースした3作目のシングルで、初めて全英シングルチャートのNo.1に輝いた記念すべき作品です(B面は「Thank You Girl」)。 2作目のシングル「Please Please Me」を“人気に火を点けた”と表すなら「From Me To You」は“火を燃え拡げた”作品であり、本曲の7週連続No.1(ビートルズで最長)-「She Loves You」6週No.1-「抱きしめたい」5週No.1…と続く“上昇気流”を形づくったことを鑑みると、彼らのキャリアでどれほど重要な役割を果たしたか理解できるでしょう。
一方、アメリカでは1963年5月27日にリリースされ、ロサンゼルスの一部のラジオ局の貢献により【the Billboard Bubbling Under the Hot 100】(※)の116位と初めて全米チャートに登場したものの、約22000枚程しか売れませんでした。 (※文字どおり、メインである Billboard Hot 100の下位チャート) また同年6月にアメリカの歌手デル・シャノンが本曲をカバーし、ビートルズの楽曲として初めて Billboard Hot 100にチャートイン(77位)させています。 更に1964年、アメリカでの「抱きしめたい」の好感触に伴い「From Me To You」と「Please Please Me」をカップリングした超強力シングルが1月3日に同国で発売されており(「From Me To You」はB面でありながら Hot 100の41位を記録)、約110万枚のセールスを挙げました。
「From Me To You」はジョンとポール・マッカートニーが実際に膝を交えて共作した数少ない楽曲で名義も【McCartney-Lennon】、ヴォーカルも全編に亘り二人が務めています。 「Please Please Me」の大成功を受けて二人はプロデューサーのジョージ・マーティンから次のシングルに「Please Please Me」に匹敵する曲を要望され書いたのが「From Me To You」で、持ち込まれた曲を聴いてマーティンは“彼らには底なしの曲の源泉でもあるようだ”と、その才能に舌を巻いたそうです。 一方、イントロのハーモニカと【da da da da da dum dum da】のアイデアを提案したのはマーティンであり、レコーディング経過を辿るとビートルズは当初イントロが中々定まらず苦労していた様子が窺え、ジョンは“最初はあまりにブルースっぽかったため録音しないところだったけど、マーティンがハーモニカを加えて良くなった”と言い、EMIプロデューサーのロン・リチャーズも“ある意味、これで(ビートルズは)マーティンの並外れた音楽的センスを知った”と語っています。
「From Me To You」は公式オリジナル・アルバムに収録されておらず、多くの企画盤/ベスト盤に収録されています。 本曲にはモノラル・ミックスとステレオ・ミックスがあり、イントロにジョン・レノンのハーモニカが入ったモノラル・ミックスはシングル盤や『オールディーズ(A Collection Of Beatles Oldies)』『ザ・ビートルズ1962年〜1966年』『ザ・ビートルズ1』、イントロでハーモニカがないステレオ・ミックスには『パスト・マスターズ』(2009年盤)などがあります。
また公式ライブ音源には、『Pop Group from Liverpool Visiting Stockholm』という非公式盤から採用された1995年の『ザ・ビートルズ・アンソロジー1』ver.、イギリスBBCラジオ放送で演奏された1963年5月21日の音源、同10月20日の音源(2013年の『オン・エア〜ライヴ・アット・ザ・BBC Vol.2』)などがあります。
If there's anything that you want もし何か欲しいものがあるなら If there's anything I can do 僕にできることがあるなら
ジョンは本曲が生まれた経緯について、次のように語っています。 “最初の一行は僕のものだったと思う。元々はもう少しブルースっぽい曲だった。「From Me To You」を書いた夜、僕らはヘレン・シャピロのツアーでヨークからシュルーズベリーまでバスで移動していた。真剣に取り組んでいたわけではなく、ただギターを弾いてふざけていただけだったけれど、良いメロディ・ラインができ始めたので本気で取り組むようになった。「From Me To You」という名前は、NME誌のチャートを確認していたとき『From You To Us』(読者欄)からインスピレーションを得たんだ…”
因みに、当時ビートルズが出演していたBBCのラジオ番組名は『From us To You』で、「From Me To You」の“替え歌”「From us To You」がオープニング・テーマ曲として使用されていました。
From Us To You (Live At The BBC / Opening Theme From "From Us To You" / 1964)
I got arms that long to hold you この腕は君を抱きしめ And keep you by my side 懐から手放そうとはしない
一方、ポールは本曲について次のように語っています。 “「From Me To You」の好きな所は、ミドル・エイトがとても完成されていることだ。この曲のCからG、そしてFへと続くミドル・エイトのコードは僕らの新しい世界を予感させる重要な部分であり、それによって僕らの曲作りのレベルが少し上がったと思う…”
本曲によって初めて全英No.1を味わった彼らですが、その実感についてポールは次のように証言しています。 “僕らが本当に成功したと初めて思ったのは、ある朝ベッドで寝ていたとき牛乳配達の人が口笛で「From Me To You」を吹いていたのを聞いたことだった。でも僕は、鳥が同じようにさえずるのを一度聞いたんだ…誓って本当さ!”
The Beatles - From Me To You (The Ed Sullivan Show - Deauville Hotel, Miami, 16th February 1964)
~ Epilogue ~
「Please Please Me」に続く3作目のシングルを想定しジョンとポールが最初に作曲した楽曲は、実は「Thank You Girl」でした。 ところがその後ツアー中に思いがけず「From Me to You」が浮かんだため、何れを優先すべきか二人はツアーで同行中のヘレン・シャピロにこの2曲を歌って聴かせ、彼女が「From Me to You」を支持した…というエピソードがあります。 彼女の意見が影響を及ぼしたかは不明ですが、結果としてシングルはA面;From Me to You / B面;Thank You Girl としてリリースされビートルズの飛躍に貢献しました(A面が「Thank You Girl」では7週連続No.1にならなかったのではないか…)。
それにしても、このツアーは1963年2月2日から3月3日まで行われ、その合間にアルバム『Please Please Me』、3月5日にシングル「From Me to You / Thank You Girl」をレコーディングしたというスピード感は、まさに驚異と言わざるを得ません。
Thank You Girl (Remastered 2009)
Just call on me and I'll send it along おねだりしてごらん、きっと届けてあげる With love, from me to you 愛を込め、僕から君へ
「Thank You Girl」は、ビートルズを熱烈に応援し、多くのファンレターを寄せてくれた女性ファンへ感謝の気持ちが込められた楽曲であり、「From Me to You」にも同様の趣旨が推察できます。 それがファンへの感謝であれ、純粋なラブ・ソングであれ、本曲に込められた【With love】こそ、私たちの日常に於いてとても大切な因子だと思います。
"I Can Doゥゥゥゥゥ"のファルセット、彼らの十八番はこの曲からでしたね(その後、"She Loves You"に展開) でも、彼らのシングル曲の中では、地味に感じてしまうのは私だけかな。当然、好きですけど(^^♪ "With Love"...またBeat Wolfさんのブログで気づかされてしまった。有難うございます。
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