本曲はティナが最初の歌手ではなく、1973年7月にソウル歌手アン・ピーブルス(Ann Peebles)が歌唱したバージョンがオリジナルで、同年に Billboard Hot 100 で38位/ Best Selling Soul Singles で6位を記録しました。 アンとそのパートナー(後の夫)ドン・ブライアント、DJのバーナード・"バーニー"・ミラーによって書かれた作品で(詳細後述)、ジョン・レノンが“the best song ever”と絶賛、ローリング・ストーン誌も【The 500 Greatest Songs of All Time 197位】(2004年)と位置づけるなど、歴史的に高く評価されています。
またオリジナル以上にチャートで成功したのはイギリスを拠点とするアメリカのR&Bユニットのエラプション(Eruption / 1978年) ver.で、 当時流行のディスコ/ファンク路線のサウンドを彩り Billboard Hot 100 の18位ほかイギリス5位、ベルギーとオーストラリア1位/ノルウェーとスウェーデン2位/イタリア3位/フランス5位/西ドイツ7位など世界的大ヒットとなりました。 それに次ぐ成功を収めたのが、1997年にアン・ピーブルス ver.をサンプリングしたシングル「The Rain(Supa Dupa Fly)」によりデビューを果たした女性ラッパーのミッシー・エリオットで、 Billboard Dance Singles Sales 3位/イギリス16位/オランダ27位など国際的にヒットに止まらず、アン・ピーブルス ver.に続き2021年にローリング・ストーン誌【The 500 Greatest Songs of All Time 453位】にランク入りしています。
~ Story ~
I can't stand the rain この雨には耐えられない
それは、アン・ピーブルズが実際に発した言葉がきっかけでした… 1973年のある夜、彼女と本曲の作者となる後の夫ドン・ブライアントとラジオ放送作家のバーナード・バーニー・ミラーがメンフィスでブルースのライブに出掛けようとしていたとき土砂降りとなり、彼女の発したのが上のフレーズだったそうです。 ところが常に新しい素材を必要としているプロのソングライターであるドン・ブライアントがこの言葉にインスピレーションを覚え、ライブに行く予定も忘れピアノの前に座り他の2人と共にテーマに沿ったリフを作り始め、当夜のうちに完成させたのが「I Can't Stand The Rain」でした。
I can't stand the rain against my window 窓を叩く雨が心を逆撫でし Bringing back sweet memories 甘い思い出たちを呼び覚ます
1970年代初頭、当時のリズム&ブルースはザ・ドラマティックスの「In the Rain」やラヴ・アンリミテッドの「Walkin' in the Rain with the One I Love」など、雨を歓迎するような内容の歌がヒットチャートをにぎわせていました。 ところがドン・ブライアントはむしろ流行に反するよい言葉だと考え、雨を歓迎しない「I Can't Stand The Rain」をテーマに掲げたといいます。 ただ歌詞を鑑みてわかるとおり、彼女の苦しみは雨がもたらしたものではなく、寧ろ“雨と共有した甘い想い出”が沢山あるからこそ、“空っぽになった部屋”の窓を叩く雨音が耐え難いのです。
既に報じられているように去る5月24日、ティナ・ターナーが83歳で亡くなりました。 彼女ほどパワフルな女性歌手を思い当たらないほど卓越した存在でまさに“Queen of Rock and Roll”でしたが、晩年は脳卒中や癌、腎不全で移植を受けるなど様々な健康問題を抱えていたそうです。 ビートルズやローリング・ストーンズがデビューする前からアイク&ティナ・ターナーとして頭角を現し、ミック・ジャガーは“僕が若かったころ、彼女は僕をとても助けてくれた。僕は彼女のことを決して忘れない”と追悼しています。
彼女は1993年に自伝映画『ティナ(What's Love Got to Do with It )』を公開、そのテーマとして新たに「I Don't Wanna Fight」をレコーディングしています。 長年闘い続けてきたティナが辿り着いた結論こそ“I Don't Wanna Fight(no more)”であり、嵐が過ぎ去った後の陽だまりのようなテイストは私の大のお気に入りです。 そしてティナが多くの歳月を費やし辿り着いた境地は彼女一個の歌曲と人生に止まらずこれからも、すべての人の、あらゆる問題を解決するヒントとなり得るでしょう。
R.I.P. “Queen of Rock and Roll”
Tina Turner - I Can't Stand The Rain (Live from Rio de Janeiro)
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