「アイム・エヴリ・ウーマン」は、1970年代に Billboard 200 で3作連続 Top10 を記録しグラミー賞にも輝いた人気ファンク・バンドのルーファス(Rufus)のリード・ヴォーカルだったチャカ・カーン1978年10月の 1st ソロ・アルバム『恋するチャカ(Chaka)』からの先行シングルで、Billboard Hot 100 の21位(同 Best Selling Soul Singles は No.1)を記録した楽曲です。 翌79年のグラミーではドナ・サマー「Last Dance」に敗れたものの【Best R&B Vocal Performance, Female】にノミネートされ、2022年にはローリングストーン誌【200 Greatest Dance Songs of All Time 27位】に位置づけられました。
作者は1960年代後半以降のモータウンで「Ain’t No Mountain High Enough」ほかマーヴィン・ゲイ&タミー・テレルの共演作品など多くのヒット曲を創作したソングライター・チームとして、またソウル・デュオとしても活躍したニック・アシュフォードとヴァレリー・シンプソンによる夫婦デュオのアシュフォード&シンプソンです。 プロデュースはアレサ・フランクリンやビー・ジーズ、ロバータ・フラック、ダニー・ハサウェイ、カーリー・サイモン、ノラ・ジョーンズらを担当し2度【グラミー・最優秀プロデューサー賞】を受賞したアリフ・マーディンで、彼は1984年にも「I Feel For You」でチャカと組んで成功を収めました。
ミュージック・ビデオは、当時MTVやVH1、BETなどポピュラー音楽のビデオクリップを流し続ける音楽専門チャンネルが開設する数年前、つまりビデオが“プロモーション”として確立されていなかった時代に制作された映像作品として先鋭的です。 「I'm Every Woman」を表すであろう“さまざまな衣装を着て踊る5人のチャカ”の映像編集は当時の最新技術であったかわかりませんが、『ザ・ベストテン』でピンク・レディーの「透明人間」に二人の姿が突然消えたり現れたりする演出がなされたのも、1978年でした。 更にアース・ウィンド&ファイアーが映像技術を駆使した「September」のMVも同年であり、1978年は映像技術にとって革新的な変革があった年だったのかもしれません。
~ ホイットニー・ヒューストンのカバー ~
オリジナルのチャカ・カーンに劣らない知名度と、それ以上のチャート成績を残したのがホイットニー・ヒューストン ver.です。 ホイットニーが1992年の映画『ボディガード』で「オールウェイズ・ラヴ・ユー」を歌唱し Billboard Hot 100 で14週連続No.1という歴史的大ヒットを記録したことをご記憶の方も多いでしょう。 全世界で4200万枚/日本でも当時洋楽史上最高の280万枚を売り上げた同サウンドトラック・アルバムに「I'm Every Woman」のホイットニー ver.が収録され、アルバムから2枚目のシングルとして1993年に Hot 100 の4位(年間39位)を記録、1994年のグラミーで【Best Female R&B Vocal Performance】にノミネートされました。
ホイットニー ver.のプロデュースはナラダ・マイケル・ウォルデンとデヴィッド・コール&ロバート・クリヴィリス(1990年に「エヴリバディ・ダンス・ナウ!」で一世を風靡した【C+C ミュージック・ファクトリー】の2人)が担当、冒頭にオリジナルにない【Whatever you want, whatever you need...】の独自フレーズとハウス・ジャム、アウトロでホイットニーが“Chaka Khan”と連呼する特徴があります。 PVには『ボディガード』のシーンが挿入されているほかにホイットニーの母シシー・ヒューストンとチャカ・カーン、本曲作者のヴァレリー・シンプソン、TLC(90年代に爆売れした女性R&Bグループ)、マーサ・ウォッシュ(「エヴリバディ・ダンス・ナウ!」の“本当の女声”)というバラエティー豊かな顔ぶれが出演しているほか、当時ホイットニーは娘のボビー・クリスティーナ・ブラウンを妊娠中で、ビデオでは大きくなったお腹を確認できるでしょう。
「I'm Every Woman」はチャカやホイットニー、アレサ・フランクリンほか実力・影響力の際立った歌手によって歌い継がれ、女性の素晴らしさを称える“フェミニストのアンセム”として長年に亘り世界で愛されてきました。 2021年3月8日にチャカとイディナ・メンゼルはデュエットした「I'm Every Woman」の動画を公開し、国際人道支援機関『CARE』の【#IMEVERYWOMAN国際女性デー・キャンペーン】を支援しています。
I'm every woman, it's all in me 私はすべてを備えた女 Anything you want done, baby, I'll do it naturally あなたのしてほしいこと何でも、自ずと叶えてあげる
「I'm Every Woman」の作者は夫婦デュオのアシュフォード&シンプソンですが、実は本歌詞を書いたのは夫のニック・アシュフォードでした。 妻のヴァレリー・シンプソンによると、彼女がコードを弾き、彼が【I’m every woman】のフレーズを発案したものの、ヴァースをどうすればよいか思いつかなかったそうです。 そこでヴァレリーが“腰に手を当てて、あなたの心の中の女性的な面を探求してみて”とアドバイスすると、歌詞が出てくるようになったといいます。
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